私もいつか、この人たちを守ることができるかな?
守られるだけではなく、
誰かを守る人、
助けることのできる人に、
私もいつかなれるだろうか。
いや、ならなくちゃ、ならない──。
こちらは異世界コンビニ ファンファレマート プルナスシア中央神殿駅前店です。
そして、胸に輝く胸章に『チーフ』という、普通のコンビニでは耳慣れない冠を付けましたるが、
私、藤森 奏楽。二十三歳。
ごくごく普通の黒髪ボブカットに、ぽんやりしがちに見える童顔だけど、
口を開けばお殿様もビックリな毒舌暴言
異世界でコンビニ店員!
のち……
「ソラさんのおとうさん」
店長がスッとテーブルから離れた。そして居住まいを整えてから、綺麗な姿勢で、
正座した両ひざに乗せていた手をリビングのマットにつくと、顔だけを父に向けた。
え? え? え?
何をする気だ、店長。
「今日はそのことも含めてお願いにあがりました。
確かに職場恋愛と言ってしまえばその危険はつきものです。
ですが、もっとしっかりした立ち位置をソラさんに提供できれば、と思っています」
何を言う気だ、店長!
「──ソラさんを私の……」
スウと息を飲みこむと、店長は言う。
言う……って、ちょ、待っ……。何? 私たち付き合ってもないし、何を言う気なの?!!
「──私のもつ店の【店長】にさせたいのですが」
まさかのコンビニ店長!?
「でも私は、店長はジグさんと絡んでくれたらもっと嬉しいんだけど」
とニコリと吐かれた言葉に、店長がピシリと固まった。
「ミ、ミサオさん……?」
エマージェンシー! エマージェンシー! と店長の中で警告音が鳴り響いていることだろう。だけど、私は傍観だ。
「そうねぇ、シチュはこのコンビニのカウンターなんてどうかしら?
もちろん、店長はボウちゃんに絡まれて動けないの。そこを背後からジグさんがズブッと……!」
「うわああああああ!! ケンタ! ケンタっ!! お前の母親だろうが!!」
店長が叫びながら、店内掃除をしているケンタに助けを求めたが、ケンタは自分の母親のことなのに、我知らぬ顔だ。
「あ、俺、今掃除中なんで」
と、サラリとのたまう。
そうなんです……!
前回から、ガラリと大きく変わった変更点。
それはこのコンビニ、店員が増えました!
その人は誰を隠そうともせず、勇者の母、ミサオさん!
「やった! デートだよ、デート!」
「はいはい、デートですね」
油断するな、ラフレ姫。ケンタも一応、男だぞ。
そんな私の内面を代理する必要もないのに、
立て続けにちゃらっ……と入店音が最後まで響くのを待てない勢いで駆けつけるバカ一人。
「ならぬ! ならぬぞ! ラフレ姫とデートなぞ、余は許さぬ!!」
「王子、何してるんですかアンタ」
王子は何故か頭を白いフルマスクで覆って登場した。
頭から被って、目と鼻穴と口のところだけくりぬいてある覆面マスクだ。
どう見ても強盗です。
それでも王子だと分かったのは、後ろにお供であるジーストさんとナシカさんがいたからだ。
★
店員も増え、
お客さんたちも相変わらずの
毒舌まじりのワイワイコンビニ営業!
の、はずが──
「婚約を申し込むことになりそうです」
と返された。
「……ん?」
ラフレ姫の言葉がよく分からなかった。いや、きちんと聞き取れはしたが、その意味が分からない。
「誰と誰が?」
端的にそれだけを確認する。
この文官たちの様子と、ラフレ姫の様子を見れば一目瞭然だろうに、それでも確認せずにはいられなかった。
「私の母国、ナナナストは、私とケンタの婚約を望んでいます。
今日は、国からの使節団が、神殿にその許可をとりに来たのです」
「……え、え、ええ!?」
静かに、だけど、諭すように告げられる言葉の、重さを私は噛みしめる。
「君は、この世界に来る覚悟と、
決してこの世界に来ない覚悟、
その二つの覚悟をしなければならない」
やっぱりそこか。でも結局そこにいきつくんだろうなとは思った。
★
ケンタとラフレ姫の婚約話に
元巫女(※店長の初恋相手)
オマケの覆面王子
と、何だかバタバタ不穏な気配……
店内では何かの燻る焦げ臭い匂い。
(ボウちゃん……!)
泣きそうになる。泣きたくなる。
でも、私はしっかりと見なければならない。
私が覚悟をしなかったばかりに、起こり得る出来事を。
そして、
どれだけたくさんの人たちが、私を守っていてくれたのかを──。
覚悟って、コンビニで売ってないのかな?
売っていたら、真っ先に私が買うのに。
異世界コンビニ2
作;榎木ユウ
イラスト:chimaki
発刊 アルファポリス
価格1200円+税
3月26日出荷予定!!
よろしくおねがいします!
「いらっしゃいませ!
ファンファレマート プルナスシア中央神殿駅前店へようこそ!」
※本文中で使用した文章は全てweb掲載時のものです。
実際の書籍とは文章が違う部分があります。ご了承ください。