相変わらずですね




本日の軍議が終わり、自分の執務室へと向かう途中
庭先で動く影を見つけひっそりと溜め息をつく。
視線の先の人物は木を伝って塀の上に立ち、キョロキョロと辺りを見回したかと思えば
うっすらと笑みを浮かべた。
「よし!」
いざ飛び出そうとしたところにわざと声を掛ける。
「相変わらずですね」
「きゃあっ!」
前のめりに落ちそうになるが必死に体を後ろへと反らし、バランスを
整えようとするが今度は後方へバランスを崩す。
わたわたともがいてみるが、抵抗虚しく落ちて来た。
地面に叩きつけられる事なく、彼の腕の中へ。
抱き留めてくれたから無事とはいえ、やはりふつふつと怒りが沸いてくる。
「・・・酷いんじゃないの?」
上目遣いに睨まれるがそんなの陸遜には知った事ではない。
「そういう尚香様は何処へ行かれようというのですか?」
「何処って・・・それは、その」
口篭り視線を逸らす。
この様子だといつもと同じく城を抜けだそうとしていたのは間違いない。
ここの塀を越えてもまだ何箇所も塀やら何やらと障害物はあるのに・・・。
抜け出そうと思うだけでも感嘆に値するとは思いつつもわざとらしく溜め息をつく。
「また城下へ行くつもりだったのでしょう?」
「だって・・・」
「退屈、ですか?」
陸遜の問いにただ黙って頷く尚香に苦笑する。
「だからといって一人で行く事もないでしょう?」
「じゃあ伯言が一緒に行ってくれる?」
先程とは違う上目遣いにくらりと来るが何とか表情は保てた。
「今から執務があるのですが」
「それじゃ一人で行くしかないわね」
「何でそうなるんですか!」
「伯言が一緒に行ってくれないんなら一人で行くしかないじゃない?」
あなた以外に誘いたい人は居ないものと付け加えられた一言にノックダウン。


ねぇ本当は知っているのでしょう?
私はあなたの何気ない一言に弱いって


「尚香様のお願いに勝てる人が居るのなら会ってみたいものです」
参ったという顔をして尚香を降ろす。
「決まりね!」
嬉しそうに笑う彼女に苦笑した。


ほらやっぱり
あなたに弱い私を知っているのでしょう?


「・・・それでも良いんですけどね」
「ん?」
「いいえ、何でもありません」


さぁそれじゃあ、誰かに見つかる前に
愛の逃避行と行きますか


<了>