近く大きな戦が起こると兄に聞かされた。
呉の将達の総力戦になると。
そして、私は連れて行けない、連れては行かないとはっきりと断言された。
どうして?といきり立つ私に、理由なんて山のようにあると渋い顔をされる。
何刻もの押し問答の末に、結局諦めさせられた。

そんな昼間の事を思いながらぼんやりと空を見上げて後の戦を慮る。
大きな戦、今までで一番かもしれないと兄は言っていた。
不安が胸を過ぎる。
頭に描いたのは彼。
否、ずっと心の中にいた彼。
気づかないフリをしていたけれど、本当はずっと想ってた。
その気持ちを確信した時、不安が大きくなり始めたのを体が震えるほどに感じた。
寒空に輝く数多の星の中から、一つ零れ落ちる。
その一瞬の輝きを見つけた彼女の瞳からも星によく似たものが零れ落ちた。


夜這い星


人の姿など見えない時間の回廊は、心細くも少し安心感を持たせてくれる。
ここで誰かに会ってしまったら、つけたばかりの決心が薄らぐ気がした。
進む速度は常日頃に比べ、とてもゆっくりで。
止まろうとする足を、止まったらそれ以上進めないと言い聞かせて歩みを進める。
そこから何歩か歩いた時だった。
爪先にこつんと何かが当たる。
ころころと陶器製のものが転がる音がして、不思議に思って下を見た。
しゃがみ込んで転がったものを手にとって見る。
「・・・杯?何でこんな所に」
前方を見やって、呼吸が一旦止まった。
手から杯が転がり落ちる。
尚香の目に映ったのは、庭へと降りる階で寝こける人物。
「・・・何でここにいるのよぉ」
思わず情けない声が出てしまった。
気を抜けば折れそうな心を必死に決心させて会いに行こうとしていたのに、
目当ての人物が酔いつぶれて目の前で寝てるのだ。
何だか一気に肩の力が抜けてしまった。
「興覇の馬鹿、馬鹿興覇」
悪態をついて気持ち良く眠る甘寧の鼻をつまむ、
起きない程度のところで離してはやったが。
額に巻かれている鉢巻は無く、下ろされた髪が彼が身じろぎすると揺れた。
手で髪を梳くと微かな音が耳に届く。
その感触にすっと目を細めた。
少しだけ開いていた唇に自分のを重ね合わせる。
触れた場所からはお酒がほんの少し香った。
もう一度だけ髪を梳いて微笑む。

今は、今はこれだけで十分。

「このままじゃ風邪ひいちゃうから、誰か呼んできてあげる」
小さな声で囁いてその場から立ち上がる。
だが腕を捕られて引っ張り込まれた。
尚香には始め何が起きたのか判らなくて、悲鳴をあげる暇も無い。
気づいた時には甘寧の腕に抱きしめられていて、思考が急激に動き出す。
「・・・っ!?」
「何処行くんだよ?」
頭の上から聞こえた声は紛れもなく彼の声で、心臓が破裂するんじゃないかと思うほどに跳ね動く。
「何処?何処って、その、風邪ひくといけないと思って誰か呼びに」
言葉がたどたどしいのは自分でも嫌というほどわかっていて、何とかごまかして離れないと
先程の自分の行動がばれてしまうという思いが余計に焦らせる。
とにかくこの状態をどうにかしないとと思い、顔を上げたところで唇を塞がれた。
甘寧が唇を離すまで目を閉じる事が出来ずにそのまま間近の顔を焼き付ける。
「興覇、酔ってるんだよね?」
声が震えてるのがわかった。
彼そのものを見る勇気がなくて、柑子色の瞳に映る自分を見つめる。
「俺は上戸だぞ、こんなんで酔うか」
言いながら振ったのは一合も入らない徳利。
「寝てたじゃない・・・酔いつぶれて」
「あー・・・違う。寝たフリしてたんだよ」
どうして?と問う小さな声に、甘寧は頭を掻いた。
「・・・賭けだったんだ」
「賭け?」
「空を見てたらな、星が一つ流れたんだ。あれって夜這い星っていうの知ってるか?
 それで姫さんの所行こうと思ったら、本人が歩いてくるのが見えたから慌てて元の場所に戻ったんだよ。
 んで考えた」
尚香はじっと甘寧が真面目に語る表情を見つめ続ける。
「姫さんが俺に気づいて触れて来たら・・・俺はお前を手に入れる」
「触れなかったら?」
「スッパリ諦める」
一本気な彼らしい賭けに笑ってしまった。
「触れただろ?髪も、口も」
甘寧の言葉に自分の行動を思い出した尚香は耳朶まで真っ赤に染める。
弁解はしたくなかった、言い訳なんかいらない事は知っていた。
ただ伝えたい一言が言葉にならない。
指先に力が篭る。
涙が溢れそうになったのを我慢した。
「私・・・私ね、あなたが好き」
やっと言えた言葉は掠れる様な必死の声だったけれど、伝わって欲しくて
本当は逸らしたかった視線を重ね合わせる。
交わった視線の先の彼の表情が、見た事無いぐらいの優しい顔で瞬きをするのも忘れてしまった。
「目ぇ閉じろ」
「・・・やだ」
「?」
「まだ興覇の気持ち聞いてない」
本当は照れ隠しなのだが、意地的なものも気持ちには含まれている。
そんな尚香を見透かすかのように、細い顎に手が掛けられた。
「・・・好きだ」
言われて気づく、こんなにも彼を愛していた事に。
さっきまで我慢できたはずの涙が零れ落ちた。
太い親指で涙を拭われそのまま顔を包まれる。
静かに下りてきた唇に今度は目を閉じる事が出来た。
何度も触れては離れる口付けが、もどかしいほどに優しい。
何度目かわからない回数の口づけをした後、甘寧は尚香の耳元で呟く。
「俺の部屋行くぞ」
そのまま抱きかかえられて、無言で彼の首に腕を回した。
これは肯定の意。
ねぇ知っておいて、私はあなたに触れられたくてたまらない事を。
そして、私もあなたにも触れたくて仕方ない事を。
甘寧の部屋へ入り、寝台の上に下ろされる。
じっと見上げると、何だ?という表情をしたから、手招きで顔を近づけさせて自分から唇を重ねた。
少々驚いたような素振りは見れたが、そのまま覆い被さられる。
その表情が少し照れて幼かったのは気のせいではなかったはずだ。
「可愛いところあるのね」
「ったく、余計な事言うなよ」
くすくすと微笑むと強めに唇を重ねられる。
そのまま舌を絡ませ合った。
呼吸が苦しくてもずっとそうしていたいと思うほど気持ちが良い。
衣服を脱がされ、冷たい空気が肌に直に触れる。
震えた身体を彼がぎゅっと抱きしめてくれた。
そのまま上から布団を被り、視界は二人だけの世界。
また口付けから始まって、ゆっくりと動く大きな手に身体が徐々に反応を示す。
首から鎖骨、其処から下へと移って行く手に声が漏れた。
反射的に自分の口元を手で覆ったが、その手を外される。
「お前の声が聞きたいんだ」
熱っぽい声に尚香の奥底が疼いた気がした。
胸の頂を口に含まれ、嬌声が漏れたが今度は隠す事はしない。
口に含まれたり指で摘まれ身体がビクリビクリと動く。
片手は胸に置いたまま、もう片方はゆっくりと滑らせるように腰の曲線に沿って下へと移動する。
その手の動きだけでも感じてしまい、身体が反応を示した。
「お前、感じやすいんだな」
下の方から聞こえる彼の声に、そんな事無いと反論したかったが、
張り始めた蕾を弄られて、言葉は嬌声へと変えられる。
「ふ、っあ」
尚香の感じる姿が愛しくてたまらない甘寧は、蜜壷へ指を差し込む。
「っあぁ!ん・・・・っ」
くちゅりと聞こえた水音が彼女の羞恥を刺激する。
指が出し入れされる度に水音は大きくなっていった気がした。
蜜が溢れ出した陰唇に指の代わりに舌を差し込み、指はまた蕾を弄る。
「っはぁん!・・・んっ、興、覇ぁ」
甘い声が自分の名を呼ぶ、それだけで幸せな気持ちにもなれた。
舌と指を交互に使って陰唇を刺激すると、溢れた愛液が太股まで濡らし指を咥えたまま嬉しそうにひくつく。
指から掌にまで伝う愛液を見て甘寧はほくそ笑んだ。
尚香の足を大きく広げ身体を割り入れる。
男根をしっかりとあてがい、ゆっくりと沈めて行く。
「んっ!」
「お前の中すげぇきついな」
入れた瞬間から襞が張り付き甘寧を締め上げる。
「力抜けって」
「抜いてるつもり、なんだけど・・・っあん」
奥まで到達してゆっくりと息を吐く、気を抜いたらこのままイキそうだった。
腰を動かす度に揺れる胸や髪が艶かしくて、思わず見惚れそうになるほど。
「あっ・・・ん、ふぁっ、あぁ!」
打ち込まれる激しさに尚香の眉が切なげに寄せられる。
一度目の絶頂を二人で迎えて、一息つく間も無くやっと手に入れた愛しい女の抱き心地に
彼女の中で再度怒張した。
そのまま続けて尚香を抱き続ける。
「興・・・覇・・・好き、大好き!」
「・・・っ尚香!」
二度目の放出後、お互いに熱い身体を抱き合った。
息も荒く、動きも怠慢だったがそれでも強く抱きしめる。
声も容姿も、全てが愛しい。
抱いて抱いて壊したいほどに。
「・・・やっと手に入れた」
呟いた一言に抱きしめられたまま尚香は微笑む。

眠りの落ちる間際、二人を繋いでくれた星に感謝した。



<了>
1111カウンタを踏んでくれたリウさんの
甘尚で尚香誘い受け最後はラブラブでってリクエストだったんですけど・・・
どうですか?(苦笑)
タイトルの「夜這い星」は大好きな本の中にある言葉から取りました。
夜這いって昔は「婚」とかいてよばい、結婚を求めてって意味だったらしいです。
まぁこの作中では尚香も甘寧もお互い夜這いを掛けようとしていたわけですが(笑)