破顔うわらう




あなたの笑う顔が好きだなんて
ありきたりな世辞を言ってると思うでしょうか?



新緑の木々が揺れ、葉や枝を通って細い金糸に似た光が優しく降り注ぐ。
ここは彼と私の特等席とも言える大切な場所。
昼過ぎの気持ちの良い時間に、私は彼を探してここに来た。
案の定というか意外というか、ここにいること自体は珍しくも無いのだけれど、
彼は幼い少年の顔で眠っていた。
「伯言?」
控えめに声をかけてみるが返事は返ってこない。
起きて欲しいような欲しくないような、そんな複雑な気持ちに駆られる。

こんな穏やかな表情で眠る彼を起こしたりなんか出来ないわ。
でもちょっとだけ、ほんのちょっとだけあなたの幸せと時間を私に頂戴。

ゆっくりと顔を近づけ、額に、瞼に、頬に優しいキスをした。
「あなたが好きよ」
「私も好きです」
突如返って来た答えに体が後ろに飛び退こうとするが、腕を掴まれ彼の体に戻される。
抱きしめられて心臓が飛び出そうになった。
「い、いつから起きてたの!?」
「私が尚香様の気配に気づかないわけないじゃないですか」
「つまり・・・初めからってこと?」
「そういうことになりますね」
しらっと答える陸遜に照れから来る怒りで再度体を離そうと試みるが無駄な努力に終わった。
唯一動く首から上を彼に向けて、睨んでみるが効果は無い。
「怒らないでください。せっかくの美人が台無しですよ」
それに・・・と付け加えて。
「私はあなたの笑顔が一番好きなんです」
と囁いて紅くなった頬にキスをした。
「・・・んもう、しょうがないなぁ」
あなたには適わないわ。
そう言って彼女は笑顔になった。



ほら、やっぱりあなたには破顔う顔が似合ってる
願わくば、その笑顔は私にだけ向けて
誰よりもあなたを想うから



<了>