「姜維、傷薬はあるか?」
趙雲とお茶をしながら休んでいたら、部屋に入ってきた馬超に行き成り尋ねられた。
「軟膏だったらありますけど、酷い傷だったら使わない方が良いですよ」
「爪を立てられた程度だ、それで良い」
わかりましたと言いながら席を立つ姜維を見送って、趙雲の隣の椅子に座る。
「何だ、猫でも飼ったのか?」
「あぁ、栗毛の我侭猫をな」
問われた事に答えながら、卓にあった茶器から自分で茶を注いで一口飲んだ。
「猫は我侭なものですよ」
奥の部屋から軟膏を手に戻った姜維が自分の椅子に腰を掛ける。
「それに、高貴な感じさえしますしね」
「生まれは高貴に違いないがな、両目が宝石にも見える」
ほぉ、と小さく賞賛の声を上げた趙雲が、ふと疑問を感じた。
「そんな猫を何処で拾ってきたんだ?」
「いつの間にか俺の所に潜り込んで来た」
あっさりと返る答えに姜維が笑う。
「では、その猫は馬超殿がお気に入りなのでしょう」
「生傷が絶えない程に気に入られているらしい」
怪我を負わされているというのにどこか含みのある笑みを浮かべる馬超。
「傷なんてないではないか?」
腕や顔に引っ掻かれた様な傷がない事に趙雲は首を傾げた。
「・・・背中に爪跡がある」
「そうか。・・・せ、背中!?」
顔を赤くした趙雲に向かって口端を上げる。
「鳴き声も中々そそるぞ」
馬超の言葉に思わず趙雲は立ち上がった。
「そ、それは、おん、女の話ではないのか!」
「猫の話だ」
くつくつと笑いながら軟膏を手に部屋を出て行く。
部屋には赤いままの趙雲と青く固まった姜維だけが残された。

<了>

これでも馬尚です
馬尚ったら馬尚です