良薬口に・・・苦し?




「自然の厳しい所で育ったのに、意外とやわなのね」
尚香の言葉に鋭い眼差しを向ける。
「お前な、誰のせいでこうなったと思ってるんだ?」
「えーっと・・・私?」
「他にいるか阿保」
冷や汗を額に浮かべる尚香にはぁとわざと溜め息をついてやった。
先日、二人で遠乗りに出かけた先は湖。
既に氷が張る季節で、氷の上を歩くという感覚を今まで知らなかった尚香は、
その遊びにいつしか夢中になっていた。
しかし薄い箇所もあれば、日光によって溶け始めている箇所もある。
そこへ足を着こうとした所を逸早く気づいた馬超が庇って、尚香の代わりに極寒の湖に落ちたのである。
「だから、私が直々に看病に来てるんじゃない」
「別に侍女達にでもやらせればいいではないか?」
「嫌よ!」
口調も表情もハッキリと嫌だと述べる。
その理由がわからなくて、「なぜだ?」と聞いた。
「だって、孟起の身体拭いたり重湯食べさせたり、とか・・・他の人がやるのは嫌」
「あぁ、やきもちか」
途端顔を真っ赤にして視線を逸らすのは照れ屋な彼女の癖。
其処が気に入ってる所でもあるのでその反応は素直に笑える。
「重湯を食う程弱ってはいないが」
一旦区切りをつけて口角を上げた。
「口移しだったら、食ってやっても構わない」
馬超の言葉に思わず上げた視線が交わってしまう。
意地悪そうな笑みはいとも簡単に心を奪って行くのだ。
それでも負けん気の強さが意地と一緒になって、戦いを申し込む。
「・・・残さないでよね」
側の茶台に載せておいた茶坏を手に取り一気に口に含んだ。
馬超の唇に自分のを合わせてゆっくりと流し込む。
「お味はどう?」
「苦いな」
「そりゃ薬湯ですもの、よく言うじゃない?良薬口に苦しって」
重湯と見せかけて薬湯を飲ませ、してやったりという勝気な笑みを浮かべる尚香。
だがまだ甘い。
彼女の細腕を引っ張り腕中に収め、まだ薬湯が残っているであろうその口内を貪る。
思う存分味わった後は、真っ赤な顔した尚香の眼前でニヤリと笑った。
「残すなって言ったのはお前だぞ」
「ばばば、馬鹿孟起!」
「まぁ、これなら何回風邪ひいても構わんな」
「もうやらないんだから!」
腕の中で暴れる尚香を押さえながら耳元で呟く。
「じゃあ他の奴に看病頼むか?」
ピタリと動きを止めて、馬超の顔を見上げる。
翠の瞳が微妙に揺れているのは気のせいではないはず。
「誰かと変わるか?」
「嫌!」
予想通りの答えに満足して、目尻に浮かぶ涙を拭ってやった。
尚香を抱いたまま上から布団を被って横になる。
「まさかこのまま寝るの!?」
「寒いからな」
「これじゃ、湯たんぽじゃない」
「俺専用だからな、他の奴にはするなよ」
馬超の言葉に、くすりと微笑んでその腕の中深く潜り込む。
「孟起だけは私が暖めてあげる」



このまま治らなくても良いかなと思ってしまったのは
二人共秘密の話である。


<了>
ホントにこの人風邪ひいてんの!?(笑)
やっぱ姫は猫のようだ。ってか、抱き枕?
良いな〜馬ちょん