来客が来るのが予定より少し遅れるらしい。
だから慌てなくて良いんだぞと伝えてきてくれないか?と主君直々に頼まれたなら
断る云われはないし、何よりほんの少しの時間でも会えるのならばと承った。
案の定、その目当ての人物は大慌てで、周りを囲む侍女達に
「だから早く準備を始めて下さいと申し上げましたのに」
等と叱られながら化粧をされている。
「あ、馬将軍」
その内の一人が馬超に気づいて、声を上げた。
「孟起、どうしたの?」
「まだ客が来るのに時間が掛かるから、慌てなくて良いと伝えに来た」
「なーんだ、急いで損しちゃった」
「姫様!」
いつもそんな事を仰って!だの、女性らしくして下さい!だのと
周りから言われるものだから、当の本人は辟易しているようだった。
「わかった、わかったから!」
そろそろお説教は終わりにしてよと目で訴えれば、侍女達もわかれば宜しいのですと
大人しくなる。
「後は紅だけでしょう?あなた達下がって良いわよ」
「・・・ちゃんとして下さいませね」
「んもう、大丈夫だってば!」
侍女達が下がって行って、ようやくといった感じで大きく息を吐いた。
「相変わらずなんだから」
漏らした言葉に呉に居た頃も同じだったとわかって噴出しそうになる。
「何よ?」
「いや、侍女達も大変なんだなと思ってな」
「遠まわしに嫌味言ってる様にしか聞こえないわよ」
頬を膨らませる幼い仕草に、くつくつと笑う。
尚香はべぇと舌を出して、彼から視線を変えた。
指に紅を少量取って鏡に向かう。
眺めていた馬超の身体が硬直した。
紅差し指が唇をなぞる仕草に思わず魅入る。
「孟起?」
紅を差し終えた尚香がこちらを向いていて、我に返った。
「どうしたの?」
「何でもない、それより良いのか?」
そろそろだろ?と次ぐと
「あ、もう行かなきゃ」
と立ち上がる。
尚香に扉を譲って回廊に出た。
後に彼女が続く。
「またね」
「あぁ」
後ろ姿を見送って、小さく溜め息をついた。
「言えるかボケ」
「見惚れてた、なんて」
呟く彼の頬は、珍しく赤い。
<了>
たまには純情馬ちょん。