一寸先も見えない程の濃霧。
船尾に居た尚香は、船首近くに居る甘寧を探して前へ進む。
船には自分達以外に何人か乗っていたが、今はこの濃霧のせいで船を進めるわけに行かなくて、
碇を下ろしたりするのに動いているらしい。
声だけが聞こえてやけに怖くなる。
一人でなければこんなに不安になる事はなかっただろう。
とにかく彼と合流しないとと思い、歩を進める。
「興覇、どこ?」
自分でも驚くぐらい不安気な声が霧に飲まれていく。
怖くなって再度前に向かって名前を呼ぶと返事が返って来た。
「興覇?」
速度を少し速めて声のする方へ向かう。
「こっちだ」
「興覇!」
鈴の音と人影を確認して、思いっきり飛びついた。
「うおっと!」
飛びついて来た尚香をしっかりと抱きとめる。
「そんなに俺に会いたかったってか?」
ニヤリと笑う彼に腹が立って、頬を膨らませ視線を逸らした。
「拗ねんなって」
頬に口付けを落として機嫌を取る甘寧。
いつも同じ手に乗るのは癪なので、彼が横を向いた隙を狙って手を伸ばす。
両手で甘寧の顔を引き寄せて唇を重ねた。
「・・・会いたかったわよ、馬鹿」
呆気に取られて固まった甘寧を無視して、照れ隠しにそのまま抱きつく。
一人では怖かったこの霧が、素直な気持ちを言わせてくれた。
だから今だけは、この白い世界に感謝しよう。
「たまにはこんな日も良いんじゃない?」
<了>
リウさんの日記イラスト見てたら思いついた作品。
リウさんに貰っていただきました〜♪