この小話はパラレル設定で書かれています。
パラレルが嫌いという方は引き返しましょう。
読んでやっても良いという方だけレッツトライ(笑)









この時期の街中は只歩くだけでも気分が良くて。
流れてくる音楽や工夫の凝らしたイルミネーションが心を弾ませる。

・・・なのに

「どーして来ないのよ!?」
歩行者天国となったこの大通りの真ん中の大きなツリーの前で待ち合わせをしたというのに、
その相手は予定時間から四十分を過ぎた今も現れない。
待ってる時間は楽しい、会ってる時間はもっと楽しい。
早く会いたいとドキドキしながら待つ楽しい時間は、少しずつ時計の針が進むごとに
不安をもたらす。
怒ったように声を出さないと不安だった。
もしかして何か用事が出来た?
それとも事故にでもあった?
携帯に電話をかけようとするがその度にきっともうすぐ来ると思い返す。
何度目になるかわからない溜め息と共に携帯を触っていると、専用の着信音が鳴り出した。
急いで出る。
「興覇!?何処にいるの?」
「何処ってお前、ツリーの前で待ち合わせだっつったろ?もう一時間近くになるぜ」
「ちょっと待って!私だってちゃんと約束の時間に来てる・・・あ」
「もしかして反対側、か?」
電話口の向こうから聞こえるクリスマスソングは自分も聞いてる曲だった。
待ち合わせは確かにツリーの前、しかしツリーの何処でなんて細かい設定はない。
大きくて立派なのも良いが、そういう意味ではやっかいだな〜と苦笑しかけた彼に
尚香の苛立った声が聞こえてきた。
「ちょっと触らないでよ!人を待ってるって言ってるでしょ!!」
「どうした尚香?」
「ちょっとね・・・大丈夫よ」
その言葉と電話の向こうから聞こえる「そんな奴ほっといて」だの「可愛いね〜」なんて
甘ったれた声の男の声にピーンときた。
「すぐ行くから無茶すんなよ」
電話を切って走る、自分が今まで居た場所とは反対側にやはり尚香はいた・・・絡む男達の姿も。
「もういい加減にしてもらえない?」
明らかに不機嫌そのものの尚香に構わず二人の男が詰め寄る。
「だからぁ、こんな可愛い女の子を待たすくだらない奴なんて・・・」
「興覇の事悪く言ったら許さないわよ!」
大きな声で堂々と言い切った尚香に周りの人垣が一斉にそっちを見た。
興覇と言えば彼女の言葉に思わず頬が緩みかけるが、何とか持ち堪えて
表情を引き締める。
尚香を後ろから抱きすくめて挑発するように前の二人組みを睨む。
「で、誰がくだらないって?」
「誰だおま・・・」
「お前等分相応って言葉知ってるか?こいつ誘うなんて百万年早いぜ」
「ちょっと興覇!」
「やべぇ、こいつ甘興覇だ!」
喧嘩腰の片方をもう片方が袖を引いて逃げ去る、恐らく逃げながら興覇の正体でも話しているのかもしれない。
「チッ、情けねぇ奴等」
片腕は尚香の身体に回したまま、反対の手でシッシと追い払うように振った。
「こ、興覇、もう放して」
「何だよ照れてンのか?周りは同じようなのばっかだってのに」
「そういう問題じゃないの!」
「はいはい」
照れて頬を赤く染める彼女が可愛くて、名残惜しく思いつつその手を放す。
「でも、嬉しかった。ありがとう興覇」
「ばーか、それは俺の台詞だ」
「?」
小首を傾げる尚香を再度腕の中に収めて耳元で囁く。
「『興覇の事悪く言ったら許さないわよ!』だっけか?すっげぇ嬉しかった」
「あ、あれは!」
「弁解とかいらねぇから、嬉しかった・・・それだけだ」
「興覇」
腕の中で顔を上げた尚香の瞳が揺れ動く。
「あんま可愛い顔すんな、ここで襲っちまうぞ」
「っ!馬鹿」
頬を赤く染めて大きな目が上目遣いに睨んまれる。
「じょーだんだよ」
「・・・もう」
苦笑して手を放すと尚香はちょっとだけ残念のようなほっとしたような顔で胸を撫で下ろす。
そこに生まれた一瞬の隙をついて、彼女の頬に軽くキスをした。
「こ、こう、興覇ぁ!」
「くっ、尚香面白過ぎ」
くっくと喉を鳴らしながら笑う興覇に、「もう知らない」とそっぽを向く。
「怒るなって、ほら」
差し出したのはラッピングが綺麗に施された小さな箱。
「いらないか?」
「いる!」
「じゃあほら」
身体を横にして腕と体の間に隙間を作る。
「ちゃんとデートしてからな」
ニヤリと笑う彼に一瞬見惚れ、次いで満面の笑みで腕に絡んで応えた。
「大好きよ興覇!」



<了>
このバカップル(笑)街中だって事忘れて二人の世界へトリップしちゃってるよ(大笑)