「っくしゅ!」
「・・・風邪か?」
「いえ、そういうわけでは」
未来の呉を担う軍師二人が執務を真面目に行っていると、陸遜が
くしゃみを漏らしたので、呂蒙が額の熱を測ってみる。
が、別段熱いこともなく、噂でもされたか?と笑いながら尋ねた。
「さぁ、どうでしょうか」
是とも非とも彼には答え様がなく、黙々と竹筒に目を通す作業を続けるが
心中ではどうせ好からぬ噂でしょうねと毒づいてみる。
前の席の呂蒙が小さく溜め息をついたのが僅かに聞こえた。
読み終えた竹筒を抱えて二人は回廊を歩んでいると前方から大股で歩く孫策と
その後ろについて歩く周瑜に会った。
何やら孫策の方は不機嫌そうなので軽く挨拶だけをしてみたものの、じと目で見られてそのまま無言で去って行ってしまう。
「あの、私は何かしたのでしょうか?」
尋ねた陸遜に周瑜は苦笑して君のせいではないと慰めた。
とはいえ、理由もなしに睨まれるのは些か不満が残る。
そんな様子を気遣かってか周瑜が話てくれた。
「君にやきもちを妬いているのだよ」
「やきもち、ですか?」
呂蒙が周瑜と陸遜を交互に見ながら尋ねる。
「姫がな、陸遜の事ばかり話すものだから拗ねてしまったんだ」
あぁなるほどと呂蒙は頷いた。
陸遜の方を盗み見ると頬が僅かに染まっている。
「殿も姫には敵いませぬか」
そういう事だと笑った周瑜は孫策を追いかけていく。
とりあえずそれを見送って向きを変えた途端、背中に大きな声がぶつかった。
「尚香は簡単には渡さねぇからなーーー!」
振り向けば小さく見える程度の場所から孫策が叫んでいるのを周瑜が宥めている
姿が目に入る。
隣の呂蒙が苦笑した空気が伝わってきた。
「・・・簡単とはいかないが貰えるかもな」
肩をポンと叩かれた陸遜の顔は夕焼けよりも赤かった。
<了>