「甘寧!今日こそ決着をつけてやる!」
「望むところだ凌統!」
血気盛んな二人が向かったのは、孫呉が誇る美しい姫君の前。
仁王立ちの状態で尚香の前に立ち、すぅっと息を吸うと
「姫さん、俺と一緒に鍛錬しようぜ!」
「俺と遠乗りでもしませんか!」
「ごめーん、今から兄様の所に行かなくちゃいけないの」
勢いよく誘ったものの、簡単に断られ言葉を失くす。
「じゃあね!」
「あ、はい」
足取り軽やかに去って行く姫君を気の抜けた顔で見送ると、男二人は顔を見合わせ勝負を昼にと誓う。


昼近く、回廊を歩く尚香に二人揃って声を掛けた。
「姫、俺と馬の手入れを一緒にしませんか!」
「俺と飯でも食いに行こうぜ!」
「ごめんねー、今日は真面目にお稽古に出るって約束しちゃったから」
「マジかよ!?」
「何で今日に限って?」
「今日ぐらい出ておかないと、今度の戦に従軍できないのよ」
それだけは避けたいのと言われてしまえば、それ以上誘う手立ては無く、
またしてもその場に置いて行かれる事となる。
「・・・次で勝負だ」
「・・・おう」


夕方に近い時間帯、庭で池を眺める尚香の前に今度こそはと互いを牽制しながら向かって来る二人。
「お、俺と・・・」
「いや、俺と」
「今日はもう疲れちゃった、また明日にでも誘ってくれる?」
三度目の正直にもならず、誘いの文句も言う前にあっさりと断られてしまった。
気力もすっかり失くし、言葉少なくその場から去って行く。
尚香が哀愁漂う二人の背中を見送ってると、後ろから足音が近づいて来た。
「ねぇ、あなたの言う通りに全部断ったけど・・・少し可哀想じゃない?」
「ですが甘寧殿と凌統殿の誘いは同時に受けられないでしょう?」
「別に時間毎とかだったら出来るわよ」
「・・・困るんですよね」
「何が?」
「お二人の誘いを受けて、疲れてしまうとほら」
くすりと笑う気配が背中に伝わる。
「私の誘いが断られてしまうじゃないですか」
「それって・・・」
振り返った尚香が目にした光景は、手をこちらへ差し出してにこりと微笑む陸遜の姿。
「私と一緒に散歩でもしませんか?」
「・・・これは断らなくても良いのよね?」
「もちろん」
「あなたってずるいわ」
「よく言われます」
でも、そうね、そういうところも惹かれるところ。
教えてあげる気は無いけれど、きっと気づいているんでしょう。
苦笑して彼の手に自分の手を重ねた。
「ありがたく受けさせていただくわ」
「それは光栄の至り」
乗せた手の甲に優しい口づけが降りて来た。

<了>
黒陸全開(笑)