鍛錬の帰り、階の上で此方をじっと見つめる二つの瞳に気づいた。
鋭い金色の瞳、銀色の被毛。
「・・・にゃぅ」
「・・・お前か」
その小馬鹿にしたような態度は何なんだ?と思ったが、猫に聞くのもどうかと思い
何も言わずに立ち去ろうとした。
しかし猫が立ちはだかるように前に来て座る。
「何だ?」
怪訝な表情で屈み、猫の首を掴んで上げた。
自分の目線の高さに猫を持ち上げて、ややつり上がった目を覗き込む。
「・・・何処が似てるんだ?」
以前この猫が自分に似ていると言われた事があった。
だから欲しかったの、と笑った顔を思い出して自然と笑みが浮かぶ。
「まぁ、俺とお前だったら俺を取るだろうけどな」
猫に笑みを向ける馬超の姿は、はたから見たらかなり滑稽な場面だったが幸い
周りに人の気配はない。
猫も猫で、挑みかける視線を堂々と馬超に向けて来る。
金目同士が睨み合っていると、彼女の声が聞こえて来た。


「尚起!尚起〜?」


「おい、誰を探してるんだ?」
彼女の姿を視界に捉えて話しかけた。
「誰って、あ!孟起が掴んでる猫よ猫」
馬超の手から猫を渡してもらって満足気にその毛並みに頬を寄せる。
「まさか飼い始めたんじゃなかろうな?」
「飼ってはないけど・・・たまに遊んだりご飯あげたり」
「それは飼ってるに等しい言い草だぞ。で、尚起とは?」
「この子の名前。尚香の尚と孟起の起よ、それで尚起。良い名前でしょ?」
にっこりと嬉しそうに語る尚香に溜め息が漏れた。
「私達の子供みたいじゃない?」
何気なく言ったこの一言に聡い耳はピクリと動く。
「何だ、子供が欲しかったのか?」
ニヤリと片頬を緩ませた馬超に、何か嫌な予感を感じ取った尚香は後退る。
「べ、べべ、別に欲しいなんて」
後退する尚香を壁際まで追いやり、両手を壁に付けて逃げられないようにした。
赤くなりかけている耳元に口を近づけ小さく囁く。
「今日辺り出来るかもな」
「なっ!?」
尚香が瞬間的に真っ赤に染まった刹那、バリっと音がしたかと思えば頬から首にかけて痛みが走る。
どうやら尚起に引っ掻かれたようだった。
「やだ!孟起大丈夫!?」
抱えていた尚起を放し、馬超の頬に手をかざそうとして止める。
どうやら線に沿って朱の玉が浮かんだようだった。
尚香が泣きそうな顔をする。
「これぐらい平気だが」
「駄目、猫の爪って菌が凄いんだから。早く消毒しないと」
「それぐらいなら俺の部屋にあったな」
「じゃあ早く行きましょ!」
馬超の手を取り率先して引っ張る。
どうやら尚起の事は放っておくらしい。
「やっぱりな」
「何が?」
「こっちの事だ、気にするな。俺の部屋に行くぞ」


首から上だけを振り返らせて、尚香に聞こえないように言う。
「・・・俺の勝ちだ」
馬超はかつてない程の勝ち誇った笑みを浮かべていた。



<了>
猫シリーズ!馬超vs猫
そして微エロも忘れない(笑)