春待ち 




どんよりとした雲が広がり、透明の粒が幾重にも
折り重なる景色は彼女の口から自然と溜め息を出させた。
「今日も雨だな」
「うん、興覇も雨は嫌?」
部屋の窓から二人並んで外を眺める。
相変わらず外は天気が悪い。
「別に好きじゃねぇけど、この時期の雨は結構好きだぜ」
意外な事を言った甘寧を見上げて尚香は斜めに首を傾けた。
「どうして?」
「今の季節の雨はな、降るごとに春に近づいてる証なんだってよ」
ニッと片頬を上げて笑う甘寧を見て尚香は僅かな間をおき笑い出す。
「・・・ぷっ!こ、興覇がそんな事言うなんて似合わなーい!!」
「おいおい、笑う事ねぇだろう?」
「だってだって、興覇が春を待ってるなんておかしいんだもん」
ぷくくくと腹に手を添えて笑う尚香の額を指で小突いて甘寧は腰に手を当てた。
「俺が春を待っちゃぁおかしいのか?」
「興覇は春より夏の方が似合ってるじゃない?春って感じしないし」
「大体男で春なんか似合わねぇ奴の方が多いだろうが!」
「そんな事ないわよ、公績とか伯言なんか似合うと思うわ。その点興覇はねぇ〜・・・くくっ」
「あのな、お前ちょっと酷いぞ」
「ごめんごめん。で、何がそんなに恋しいのかしら?」
目尻に涙を浮かべて未だ肩が震える彼女を見て一つの溜め息。
「あ〜何で俺こんな女好きになったんだろ?」
「あ!それこそちょっと酷いんじゃない?」
「お前ぇが先に俺を苛めたんだろうが!あいこだあいこ」
甘寧の言葉に尚香は笑顔を零す。
「じゃあそういう事にしといてあげる。でも、さっきのちゃんと教えてよ」
「あ?何だっけ?」
「もう、何で春を待ってるかって聞いたじゃない」
「あぁ、そんな事聞いてたっけな」
「そうよ、だから教えて」
ね?と目配せする彼女に頬を掻きながら息をつく。
「春が来れば色んな所に行けるからな・・・お前喜ぶだろ?」
途端尚香の動きが止まった。
今度は甘寧が首を傾げる。
「どうした?」
「興覇・・・それって、私の為って事?」
「・・・まぁ、そういう事になるな」
「・・・そっか」
「嬉しくねぇのか?」
俯いてしまった尚香の様子を伺おうと屈んだ瞬間、
抱きつかれた、というよりは飛びつかれたという表現が正しいこの体勢。
とりあえず彼女の背中に腕を回してから名前を呼んでみた。
「尚香?」
「興覇・・・ありがとう」
その声が少し震えていた事に気づいて、そっと抱きしめる。
「馬鹿、こんぐらいで泣いてんじゃねぇよ」
甘寧の声は言葉とは反対に優しい。
そんな優しさを知っている尚香は目を瞑った。
唇に降りて来る暖かい熱を待って。


口付けの後、甘寧の手を握りながら一度窓の外を見た。
「・・・春になったら」
「春になったら?」
隣の彼を見上げて穏やかでいて華やかな笑みを浮かべる。
「一緒に色んな所に行こうね!」



春恋しくて

語った想いは

君の笑顔には敵わない



「お前の笑った顔が春みてぇだよ」



<了>
ってなわけで、甘尚SS。
リウさんの誕生日プレゼントなのです。