まず初めに、この作品はかなりダークである事をお知らせします。
鬼畜な凌統や幸せじゃないSEXがイヤだという方はすぐ引き返す事をお薦めいたします。
大丈夫だという方のみどうぞ。







悲憐愛ひれんあい




「おやすみ」
「あぁ」
簡単な挨拶の後、軽い口付けを貰う。
何だかこのまま離れたくなくて、そっと厚い胸に寄り掛かった。
「どうした?」
「ん、何だか離れたくないな〜って」
「・・・っ、お前なぁ」
「何?」
「そんな可愛い事言ってると帰したくなくなるだろうが」
ったくよぉと言いつつ嬉しそうに抱きしめる。
「興覇の体、あったかいね」
「お前ぇもあったけぇよ」
抱き合って、頬擦りをして、この瞬間が幸せだと思う。
だが明日の早朝に甘寧は水軍の訓練の為建業を立つのだ。
「そろそろ寝ないとね」
尚香の寂しそうな声に頷いて体を少し離した。
見上げる翡翠が揺らぐ。
「あんま、困らせるなよ・・・本当に帰したくなくなっちまう」
「興覇、その気持ちが嬉しい」
ぎゅっと抱きつく尚香を抱きしめて、その滑らかな頬に口付けを一つ。
「こんぐらいにしとくか、いつまで経っても離れられねぇからな」
苦笑しながらゆっくりと密着していた体を離した。
頷いて尚香も一歩下がる。
「じゃあね、訓練頑張って」
「おう!任せとけ」
にっと爽快に笑う甘寧を見上げて尚香も微笑む。
「おやすみ」
もう一度あいさつをしてからその場から去って行く彼女の後ろ姿に、
何かの不安を覚えた。
「・・・尚香!」
「え、何?」
思わず呼んでしまってから、何を言って良いのかわからなくて焦る。
「いや、その・・・土産たくさん持って来るからな」
「そんなの良いよ、興覇がちゃんと帰って来てくれればそれで良い」
くすりと笑みを零した尚香に、「そっか」と照れ笑いを返す。
「変な興覇・・・じゃあ今度こそ、おやすみ」
ふわりと笑って手を振り、背中を向けて歩き出した。


「・・・泊まっちゃえば良かったかな?」
回廊を自分の部屋に向かって歩いていた尚香は立ち止まってぽつりと呟く。
自分の言葉に苦笑してからまた歩き出した。
ふと気づいたのは、前からこちらに向かう気配。
立ち止まって相手を伺うと現れたのは。
「公績、何してるの?」
「何って、姫を待ってたんですよ」
「私を?」
「そう、あなたに用事があるんです」
見慣れた凌統の微笑みに、警戒しないで近づいた。
「なぁに?」
斜めに傾けた顔に何かを宛がられる。
「っ!?」
「おやすみ・・・姫」
それが何かを確認する間も無く、目の前が白くなり始めて・・・
「こ・・・」
気が遠くなる間際に見えた凌統の顔は、悲しい笑みを浮かべていた。


「あぁ、目が覚めました?」
瞳を開けた尚香の顔を覗き込む凌統の姿を視界に捉える。
何時も通りの口調、何時も通りの斜に構えた笑顔。
でも、何かの違和感。
朦朧とした頭ではそれが何かはわからなかった。
「ここは俺の私邸です。今は俺等以外出払ってますけどね」
何で凌統の私邸に自分が居るのかわからない尚香は首を少しだけ傾げる。
「ちょっと強すぎましたかね?」
何が?という問いさえ言葉として出てこない。
「薬ですよ、覚えてませんか?」
ハっと思い出す、凌統に何かを嗅がされて気を失った。
そして気づいた、確実な違和感。
先程のとは比べ物にならない程、確実なそれ。
「う・・・そ、嘘よね?」
目の前の凌統に尋ねるが、彼は薄笑いを浮かべる。
「気づきました?」
「嘘・・・嘘って言ってよ!!」
狂乱したかのように叫ぶが、彼は動じない。
「自分の目で見てみればわかりますよ。あぁ、その状態じゃ良く見えないか」
くすりと笑う凌統に錯乱しそうになる。
頭の上で縛られた両手、空気に直に触れている肌、体の中心の疼き。
知っている、この疼きは何なのか知っている。
「どう、して?どうしてよ公績ぃ!!」
「どうして?あなたを抱きたかったから、それだけですよ」
氷のような視線、けれどその口元は微笑んでいた。
涙が零れる。痛いのは体?心?
「こんな、の・・・公績じゃない」
「俺ですよ、あなたを攫って無理やり抱いた・・・全て俺です」
覆い被さられて深く口付けされる。
「んっ、う」
入れられた舌が口内をかき乱す。
そのままにされずに尚香は抵抗の意思を見せる。
凌統は睨みつける翠が涙で揺れて綺麗だと心中で零した。
「っ!・・・さすが」
唇を離しほくそ笑む。
噛み切られた唇から流れる血を舐め取って、乱暴に尚香の足の間に入り込んだ。
「いやっ!いやぁぁぁ!!止めて公績!」
「姫が悪いんですよ・・・ずっとあなたを愛していた俺じゃなく、あいつを選んだあなたが」
狂気を携えた瞳に体が強張る。
刹那、入って来た彼に逃げ出そうとするが縛り付けられた腕と、押さえつけられた腰のせいで
逃げ出せなかった。
「っやぁ、いやぁ!出して、出してぇ!!」
ぼろぼろと涙が零れ落ちても凌統の動きは止まる事はない。
出し入れされる度に粘着質の水音が室内に響く。
何度も突き上げられて既に体に力は入らず、抵抗する気力も無くなっていた。
「っあ・・ん、はぁ」
「姫、壊れても良いですよ」
そう囁きながら頬を撫でる手は優しいのに悲しさが満ち溢れている。
「どうせ俺も壊れてますから」
乾いた笑い声が頭に響き渡った。
凌統に対する怒りや恨む気持ちは起こらない。
ただ、ただ悲しかった。
「こ・・・う・・・」
呼びたかった名前は愛する人か、それとも目の前の彼なのか。
「壊れた世界で愛し合いましょう」
近くて遠い凌統の声・・・憐れだと思う。
それは自分なのか、彼なのかはわからないけれど。
それでも凌統が救われれば良いのにと願って止まない。


涙でぼやける視界を消したくて、瞳を強く閉じる

どうかどうか、瞳を開けた時に全てが夢でありますように

あなたが・・・救われていますように



<了>
ダークです、ここまでダークな感じは今までにないです(苦笑)
「カウンタ10000越えて嬉しいぞ企画」へリクエストしていただいた品ですので、
リクエストしてくれたリウさんだけ持ち帰り可となります。