「・・・綺麗ね」
そう言いながら、綻んだ笑顔を思い出す。
また逢う為に
「孟起〜!!」
相当離れた場所から鈴の様な声を響かせ、こちらに向かって手を大きく振る姿が目に入る。
「・・・騒がしいな」
そう呟きながらも口元が笑ってしまうのはなぜだろうか?
答えは簡単なのに、言葉に出すのは難しい。
「孟起ってば!手を振り返すぐらいしたらどうなの!」
先程の大輪の笑顔と違って、今度は拗ねる様な顔で足音高く近づいて来る。
彼の方からも歩みを進め、彼女の傍へと立った。
「俺が手を振る姿を見て気持ちの良いもんだと思うか?」
その言葉にん〜っと考え込む彼女。
少しの間を置いて、「可愛いじゃない」と言い放った。
「阿呆か、気持ち悪い」
「可愛いって言ってるのに・・・あ、可愛くない顔〜」
眉間の皺を指差して「すぐ怒るんだから」と不貞腐れる様に言う。
その細い指を軽く握り少し屈んだ。
視線が丁度同じ高さになるように。
「・・・怒らせるような事をするのが悪い」
そのまま力を入れずに引いてみれば、いとも簡単にその体は引き寄せられる。
屈んだ体は元に戻して、彼女の背に空いてる腕を回す。
その手に力を入れれば二つの体は密着して一つの大きな影となった。
「機嫌直った?」
「どうだろうな?」
問われた声に笑いを含んで答えると、頭一つ分下の彼女が上目で睨む。
「直ったって正直に言いなさいよ」
くつくつと笑うと、空いてる方の手が頬に伸ばされる。
「ちゃんと言わないと痛い事しちゃうんだから」
「してみろ・・・倍返しだぞ」
馬超の言葉にうっと呻く。
心なしか体も後ろへと引くような体勢だが許しはしない。
「孟起ってば、卑怯なんだから」
「何とでも言え、お前に負ける気はしない」
「何時かは勝って見せるわよ!」
「好きに言ってろ」
余裕の笑みを見せ付けてやると、悔しそうに眉根を寄せた。
その額に口付けを落とす。
「直ったか?」
頬を赤く染めた彼女に尋ねると、小さな声で答えが返って来た。
「・・・直った」
その悔しくも嬉しそうな表情に笑みを重ねる。
刹那、背中側から差し込む光に首から上を後方に向けた。
ついさっきまで降っていた雨が上がり、雲の隙間から光が差し込んでいる。
徐々にその光の幅は広がり、彼らを含んで辺りを照らした。
眩しさに目を細め、手をかざす。
「・・・綺麗ね」
漏れた様な小さな声に振り返る。
「何がだ?」
一瞬だけ間を置いて彼女の細腕が馬超の髪へと伸ばされた。
「・・・孟起の髪、日の光できらきらって」
そこで溢れた笑顔は、言葉を無くすには十分で。
「孟起?」
「・・・何だ?」
「顔赤いけど、どうかした?」
「気にするな、何でもない」
「・・・?」
彼女が鈍感で良かったと心から思う。
言葉に出来るわけがなかった。
・・・その笑顔に勝った験しがないなんて。
「・・・末期かもな」
小さく漏れた言葉に彼女は首を傾げるだけだった。
今では遠く離れてしまった彼女。
いつしか馬超はこの川に近づくのを避けていた。
だが、今はもう・・・。
「お前がいないのにも飽いた」
ふっと口元に笑みを浮かべ、久々に見る川を見下ろす。
「・・・綺麗ね」
彼女の声がまた聞こえる。
「濁った川の中じゃ見えないだろ?」
広大な流れに小さく問いかけ、天を見上げた。
あの日よりも乾いた光が降り注ぐ。
「泣くなよ、頼むから」
向こうで会った時の彼女を考え苦笑する。
「・・・尚香」
優しい声色で名を読んだ後に響くは水の音
雄大に雄雄しく流れる川に
一つの恋が溶けて行った
<了>
ある方への(笑)お礼小話です。シリアス3:ほのぼの7という設定でということでしたが、
どうですか?出来てますかね?(ドキドキ)