戯雨
「・・・っくしゅ」
小さくくしゃみをした尚香に、寝台の上に寝転がっていた甘寧が顔を彼女に向けた。
「だから言っただろ?」
「だって」
「だってじゃねぇよ、俺の言う事聞かなかった姫さんが悪い」
甘寧の言葉にむっとしたが、だがそれは尤もな事であった為言い返す事が出来ない。
「大体、雨が降ってんのに外でボケっとしてるなんて何考えてるんだ?」
「だからぁ!その理由はさっき聞かれた時に言ったじゃない!」
「あん?何だったっけか?」
「もう・・・綺麗だったから、見とれちゃってたの」
『太陽が出ててこんなに明るいのに、雨が降るなんて不思議』
そう言いながら飽きる事無く空を見上げていた尚香を見つけた時には既に全身びしょ濡れだった。
中に戻れと口で言っても言う事を聞かず、もう少し見てたいと言い続ける彼女を
これ以上雨にさらす訳にいかないと思って無理やりに近い形で自室へと連れて来た。
大き目の布を渡して水気をふき取らせていると、先程のくしゃみが零れたのだった。
「あのな、いくら綺麗だ小雨だっつってもよ、雨は雨なんだって」
「それはわかってるけど」
「わかってねぇよ、実際風邪引く寸前だろうが」
少し厳しすぎる言い方かもしれないがそれは尚香を心配するが故で、本人に彼女を傷つける気など更々ない。
それは彼の本質を知る尚香にもわかっていて、言い返すような事はしなかった。
でも少し悔しかったのも事実で、違う方法でのお返しというものを試みる。
「ねぇ興覇」
「ん?」
「寒いの」
うっすらと涙を浮かべ、甘寧の体に指先で触れる。
軽く、けれど滑る様に妖しい手つきで。
その大胆な仕草が彼を刺激したのは間違いなくて。
尚香は後悔をするのだった。
あぁ、戯れも程々に
<了>
戯と書いてそばえを読むそうです。
タイトルは雨にちなんで戯雨<そばえあめ>
あっさりに見えて、実はラブラブな感じが伝われば良いv