「今年は雨が降るらしいわ」
どんより雲が覆う空を見上げて、ぽつりとつまらなそうに呟いた言葉。
「天の川、好きでしたっけ?」
隣に居た男が尋ねると、綺麗な翠が其方を向いた。
「好きというか、ん〜別に好きなわけじゃないんだけど・・・でも、好きなのかな?」
首を傾げながらう〜んう〜んと考え込む彼女にくすりと笑う。
「もう!公績のせいでわけがわからなくなっちゃったじゃない!」
「それって俺のせい?」
「公績のせい!」
「うわっ、酷いねぇ姫」
言葉とは裏腹に酷いなんて思ってなくて、ただ隣で不貞腐れる彼女が愛しくて仕方ない。
ここでまた笑うと彼女の機嫌はそれこそ悪くなっていくだけなのを知っている彼は会話を
違うところに持っていく。
「ところで姫、短冊には願いを書いたんですか?」
「もちろん書いたわよ。・・・あ」
「どうしたんですか?」
「・・・天の川が見たい理由がわかった」
そっか、そうよね。と一人で納得している尚香に凌統が首を傾げる。
「姫?」
尋ねた彼に少し照れたような顔で言葉を発した。
「ほんっとーに自分勝手だとは思うんだけど、天の川が出れば願いは叶うんじゃないかなぁって」
「あぁ、出なかったら叶わないって思ったわけですか」
「うん、牽牛と織姫には悪いとは思うんだけど」
ごめんねと空に向かって謝る尚香の姿に、あぁ可愛いなぁなんて心中で和む。
心中だけじゃなくて実際には顔も緩みきっているのだけれど。


「それで、願い事って何ですか?」
「公績、今日は質問ばっかりじゃない?」
「姫の事を知りたいって常に思ってるもんでね」
茶化すような言葉だけれども本心で。
誰よりも何よりも彼女が優先。
「で?」
「で、って言ったって教えたくないもの」
ぷいっと顔を横に向けた尚香の表情から照れ隠しだという事はよくわかる。
しかし願い事の内容までわかるほど神がかりなものはない。
「ふ〜ん、じゃあ短冊の方を拝見させてもらおうっかな」
「や、止めてよ!」
「あ、もしかして俺関係?」
人の悪い笑みを浮かべて聞くと、真っ赤になってそんなんじゃない!と言い張る彼女。
意地悪ってわけではないが、笑みを浮かべたまま聞いてみる。
「じゃあ教えて下さい」
途端、うっと呻く彼女。
本当にわかりやすい。
「空言なんか姫には似合いませんよ」
そうでしょう?と聞くと、ほんの少しの間を置いて、そうねとまだ赤い顔で笑った。
「公績に関係するって事だけは正直に言っておくわ」
でも、と付け足す。
「それ以上は教えてあげない」
「短冊の方は?」
「もちろん、見たら絶交よ」
「それはきついねぇ」
軽口の掛け合いのようだが結構本気なのはお互いわかっている。
「わかりました、短冊は絶対見ません」
絶交されても修復させる自信はあるが、一度でも彼女には嫌われたくはない。
凌統の言葉に尚香は頷いて微笑んだ。
「だからあなたが大好きなのよ」
「お褒めの言葉をありがとうございます」
なんて言いながら腕は尚香を抱き寄せる。
「もぉ、褒めたらすぐこれなんだから」
「でも嫌いじゃないでしょ?」
凌統の胸にそっと寄りかかって目を閉じた。
「・・・嫌いになんか、なるわけないわ」

だって、好きで好きで仕方ないんだもの

「願い事、天帝じゃなくてあなたにするべきだったかも」
「ん?」
「ううん、何でもない」


願ったのはあなたの気持ち

ずっとずっと変わらないで

私の傍に居てね


「公績、好きよ」
「俺も好きですよ」



<了>
七夕小話・・・書くつもりはなかったんですけど・・・っつうか
絶対書けないって思ってたんで;