わかってたんですけどね







あぁなんて、愛しいんだろう

そう何度も思わせるなんて

なかなか出来るもんじゃないですよ?



久々にとれた二人だけの時間。
普段通りに会話を楽しんでいると、ふと彼女が無言で見つめて来た。
気になって尋ねてみる。
「どうしました?」
「ん、ちょっと」
「何でも言って下さい、俺に出来る事ならしますから」
あなたの願いは叶えますよと優しく笑えば、彼女はにこっと笑い返した。
「ねぇ公績、ちょっと屈んで」
「こう、ですか?」
尚香の突然のお願いにほんの少し戸惑いながら、目線が同じになるぐらいまで屈んだ。
あ、良い匂いがする。と思った瞬間、頬に暖かな温度。
「・・・・・・」
「あなた、背が高過ぎるんだもん」
わかるようなわからないような理由をつけて
ちょっと頬を膨らませる愛しい姫君。

突拍子もない事をよくする人だってのはわかってたんですけどね。
それでも、これはちょっと驚いてしまうわけで。

「・・・俺を殺す気ですか?」
「何よそれ〜」
凌統の揶揄にむっと眉根を寄せる。
しかしそれに怯む事無く彼は彼女に近づいた。
「俺の心臓、飛び出そうな勢いで跳ねてますよ」
ほら。と彼女の手を握って自分の胸に当てる。
「あ、ほんとだ」
「ね、だから言ったでしょう?」
凌統の言葉に、満足そうに頬を緩ませてそのまま抱きついた。
「成功!」
「は?姫、今なんて?」
尚香を抱きとめつつ、『成功』の言葉の真意を問う。
彼女は一旦凌統の首に回していた腕を放して上目でこんな事を言う。
「だって公績ってば、私といても全然表情変わらないんだもの」
「・・・・・・はい?」
「そうでしょ?」
「あの〜?どこをどう見たらそういう風に見えるんでしょうか?」
周りの奴らにはばればれで、下手したら命さえ狙われるぐらい緩みきってる顔をしているらしいのに。
当の彼女にはまったく変わらないと思われていたなんて。

「ほんと鈍感なんだなぁ」
その言葉にまたしても眉間に皺が寄るが凌統は気にしない。

まぁ、そういうところも多大にあるなんて事・・・
「・・・わかってたんですけどね」
少年のように笑った彼は彼女の後ろに手を回して抱き上げた。
「なっ!?こ、公績!」
驚きと恥ずかしさからか顔を赤くする彼女。
先程の不機嫌な表情は飛んでしまった。
「姫にはもう少し俺の事をわかってもらわないとね」
「どういう・・・!?」
凌統の浮かべる笑みの意味を悟り冷や汗を流す。
しかし逃がすわけがない凌統は、抱き上げている腕に力を込めた。
「と、いうわけで、もっと愛を深めましょうか」
「い、いい!深めなくてもいいから!!」
「遠慮しなくても良いですって」
「遠慮じゃないってーーー!!」



数時間後、満足そうな表情で眠る凌統の腕の中で
照れながらも幸せそうな笑みを浮かべる尚香の姿があった。



<了>
お題でこういう明るい感じは初めてかもv
なんかシリアスが多かったから新鮮だ。