特別な




今日は特別な日なのだという。
昔、故郷に居た頃に二人の義姉が教えてくれた。
大切な人と一緒に過ごす、特別な日。
でも、今まではそんな事を思い出すことも無かった。
いつも傍には大切な家族や友人が居て、特別だと考えることが無かったのだと、
今になってわかった。
そう、今は・・・今は家族とも友とも呼べない大切な人が居る。
だから思い出してしまったのだ。
今日が特別だということを。

「なのに、一緒に居られないなんて〜!!」

可愛らしい声なのに、寂しさに怒りを含んだ声が響く。
彼女の想い人は本日、隣村で暴れる山賊を討伐するため出兵してしまっている。
はぁと白い息を手にかけ、空を睨む。
「早く帰ってきてよ子龍。寂しいじゃない」
他に一緒に居たい人が居ないわけではない。
夫と呼べる人も、良くしてくれている家臣もいる。
故郷から付いて来てくれた侍女達も居る。
だけど、やっぱり。
「あなたと一緒に過ごしたい」
もう一度、息を手にかけた。
白い息はすぐに掻き消え、静寂が訪れる。
山賊は強いのだろうか?怪我人は出てしまっている?
子龍なら大丈夫よね?・・・大丈夫、大丈夫。
自分に言い聞かせるように、ぎゅっと両手を握り目を瞑っていた。
雪が降って来ているのにも気づかず、祈るようにずっと。
不意に肩から暖かさを感じて慌てて振り返る。
「風邪を召されますよ」
少しだけ困ったような笑い顔。
趙雲に違いなかった。
「・・・気配も感じさせないなんて」
嬉しいはずなのに拗ねたように見せてしまう。
素直にその胸に飛び込めない自分が苛立たしい。
「何時の間に戻ったの?」
「つい先程ですよ」
見れば、鎧の所々に泥や赤黒い汚れが付いている。
きっと急いで帰って来て、そのまま自分の下へ来てくれたのだと嬉しくなった。
「あぁ、こんな格好で尚香様の前に出るべきではありませんでした。すぐに着替えて参ります」
申し訳ありませんと頭を下げる脳天を一発叩く。
驚いて上げた顔は端正な顔を不思議顔にしてしまっていたが、そんなことはお構い無しだ。
「馬鹿、そんなのどうだって良いんだから!」
「しょ、尚香様?」
慌てる趙雲の手を握った。
「嬉しかった、あなたがそんなに急いで来てくれるなんて」
「・・・私も嬉しかったですよ」
「え?」
「あなたが、ずっと祈って待っていてくれたこと」
近づく自分に気づかず、小さな声で『子龍』と呼んだあなたが愛しすぎる。
「・・・子龍」
「やはり着替えるべきですね」
「どうして?」
「このままではあなたを抱きしめることも出来ない」
「なっ!?」
「そうでしょう?」
悪意なんて感じない純な笑顔に何も言えず、尚香はまた拗ねた振りをするしかない。

それでもやっぱり

あなたが居るだけで特別なんだと思ってしまうから。
今日も、明日も特別な日になるんだろう。


<了>
フリーです!(いきなり宣言 笑)
期間は別に設けてないんで、欲しい方・・・どうぞ!