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 栃木市 議員研修会 視察報告書
<日時 場所 内容> 
2009年 11月24(火)13:30〜14:00
   栃木市国府地区公民館
『議員研修会in蔵の街とちぎ』
講演会 「行政改革の目的と使命」
講師 並河 信乃先生(行革フォーラム代表、拓殖大学地方政治行政研究所客員教授)
講演会 「議員の使命と議会改革」
講師 竹下 譲先生(拓殖大学地方政治センター長、自治体議会政策学会会長)
11月25日(水) 栃木市役所 9:00〜11:00
「栃木市自治基本条例」「議会基本条例」作成と議   会活性化の取り組み
説明員 外村 健市議会事務局長、関口邦夫議事課長、吉田 稔市議会議長、須田安すけ市議会副議長、大川 秀子市議、早乙女 利夫市議、大武 真一市議、他
<参加者>
白土 仙三郎、石井 仁志(共に改革ネット)
 ◇栃木市議会 研修目的
 
 議員だけで出来る活性化
 
 栃木市は大平原の関東平野の北端にあり人口82,195人(平成21年4月1日)、明治初期一時だけですが県都でもあったとのこと。利根川の水運中継地として江戸時代から商都として栄え、水運の要であった巴波(うずま)川に沿って蔵が建ち並んで、小江戸の趣を今に残しています。
 現在はイチゴ(とちおとめ)、カンピョウなど農産物と、残された蔵が並ぶ蔵の街通りを中心に隔年開催の秋祭りなど観光客誘致を図っています。秋祭りに各町内から引き出される勇壮華麗な鉾山車は山車会館に保存され、常時観光客に公開されています。
 また水の都らしく、中心街の蔵の街通りはかつて道路の真ん中に水路が流れていたとかで、道幅も広く、拡幅の苦労なしに現在も街の中心道路としての機能を果たしています。
 後述しますが、このような地味な地方都市で市議会議員の皆様が、先進的な議会改革や市民との対話などを積極的に仕掛けている姿は、不思議な気がします。
 うがった見方をすれば、かつての小江戸と言われた街が、人口減少や時代の流れに沈んでいくのを自覚した議員の一人ひとりが、産業誘致や資源開発などに頼らずに、人だけで変えられる、何人かの意識改革だけで可能な街の活性策として、地方議会の活性化に目覚めたのかと思いました。
 ここでの24日の講演会は積極的な議会改革に取り組む栃木市議会が、来年4月に合併を予定している近隣3町(大平町、藤岡町、都賀町)の議員を巻き込んで、議会と議員のあり方の勉強会を拓殖大学地方政治センターと協力して開催したものです。栃木市議会の議員も含めて、近隣町議会議員と私たち自治体議会政策学会のメンバーである全国規模の議員も交えて、ほぼ100人の会場が満杯でした。
 翌25日、大川議員の計らいで、自治基本条例・議会基本条例の作成経過、地区ごとの議会報告会開催の取り組みなどを、日立市議会の2人に対し、前夜から半数近い(議員定数20人)議員の皆様からレクチャーをいただきました。その熱意とお心遣いに感謝致します。
    ◇講演会
 
  土光臨調とマーケット重視
 
◆「行政改革の目的と使命」 講師 並河信乃先生(行革フォーラム代表、拓殖大学地方政治行政研究所客員教授)

 並河先生は昭和56年、鈴木善幸首相時代の第2次臨時行政調査会の会長に就任した土光敏夫経団連会長(当時:「メザシの土光」で有名。歳出削減となどを提案して、次の中曽根内閣の国鉄民営化、電電公社の民営化を主導。答申は昭和58年3月。中曽根内閣はS57年11月に成立)の応援団として当時の中曽根康弘行政管理庁長官のもとで、土光臨調の応援団として『行革フォーラム』を結成したそうです。
 ここでは「行革とは民主主義の復活」と規定されました。選挙を経ない官僚・行政が肥大化していくのに歯止めをかけることです。
 @中央政府の政治 A地方政治 Bマーケット この3つが行革の遂行で蘇りをはかる−−これが行革の目的であり、官僚から住民の手に政治を取り戻す方法だと説かれました。
 この中で注目されるのは、土光さんとどの程度のお付き合いか分かりませんが、この復権の一つにマーケットを挙げていることです。
 @の官僚から政治への主導権は、現鳩山内閣を見て了解できます。
 Aの官僚が中心となっている中央政府から「地方政府」(最近は地方政府と呼ぶ学者も少しずつ増えているようです)が拘束を逃れる、すなわち地方主権の考え方は今でもずっと続いています。
 この会場はほぼ地方議員で埋まっていましたので、最後は、地方政府も中央政府に見習った行革と、議員主導による議会の復権と政策立案力などを付け加えられました。拓殖大学が先進的に取り組んでいる地方政治行政の客員教授としては、ぜひとも言い置かなけれなかない事でしょう。
 注目はBのマーケットが、行政の縮小・自由化によって活性化する論理です。この後の中曽根内閣の大胆な民営化の大きな道を開いていく契機になっています。これこそが経団連会長という、マーケット代表が行政改革の主導権を握った、必然的な帰結でもあり成果でもあったのでしょうか。
 この時点では間違いはなかったでしょうが、亀井郵政担当大臣を弁護するつもりは毛頭ありませんが(むしろ否定します)、民営化だけでは解決できない問題も、この後の歴史の中では考えていかなければならないような気がします。
 
 議員同士が議論する議会を
 
◆「議員の使命と議会改革」 講師 竹下 譲先生(拓殖大学地方政治センター長、自治体議会政策学会会長)

 竹下先生は現在も三重県教育委員(H19.3.10〜H23.3.9)の現役で、ひな壇に引き出されたと言いますから、委員長か相応の役柄も経験しているようです。
 日頃から行政全般にわたって意見を述べられる地方議員の一般質問を重視し「新しい自治体に行っても一般質問の議事録を見れば、その自治体が抱えている問題が分かる」と持論として述べています。
 地方分権法による地方の自立などの中で、「良い仕事を市民に見せれば、議員定数の削減も、報酬の問題も後退する必要はない」と述べていました。
 別席での話しですが「日本にも江戸時代から自治体議会があった」と、述べています。自発的な村の寄り合いなどを、自治集団として評価するのだと思います。
 江戸時代の「5人組」はお上の命令ですが、戦後、GHQに戦時中の「隣組」を解散させられても、なお町内会などの自治会が立ち上がってきたのを考えると、もう少し日本人の自治能力を認めても良い気がします。
 それが議会制度を取るようになって、どうなったのでしょうか。主に議会を地域の問題の「議論の場」と考えると、完全に後退しています。
 昭和20年代は地方議会では議員間で激しい論争が繰り広げられたようで、議場で灰皿が乱舞したとのこと。議会規則の「議場へのステッキの持ち込み禁止」などはその名残でしょう。
 これが昭和30年代になって(地方自治法の改正が契機かな)議会規則のモデル型が全国に通達されると、全国ほとんどが議員の自治能力を信じない方向での全国一律の議会規則が出来上がりました。現在でもほとんどの自治体でそのまま旧態依然としてまかり通っています。
 「討論」形骸化、常任委員会編成の問題(役所の縦割りで住民の意見に沿いにくい)などは、法で決まっているのではなく、これらの省令や通達の範囲にあるにもかかわらず、ほぼ全国的に同じ形で踏襲されている。
 ぜひ議会規則の見直しは必要とのことでした。
 また予算についても、前年の決算を市民に分かる形で翌年に予算に反映できるような仕組みを取り入れるべきと、持論を述べられていました。
 
   ◇栃木市議会
 
  議員自らが課題を引き受けた
 
◆「自治基本条例」と「議会基本条例」の制定経過
 
 日向野(ひがの)義幸現市長(H15.4月〜現在)が平成16年3月に支持者などを中心に『栃木市を考える100人委員会』を設置して委員公募をしました。この100人委員会は平成18年には『自治基本条例を考える市民会議』と名前を変えます。
 どうやらこの市民会議に出席した議員さん達の扱いが少し問題となったようです。
 このため平成20年の第2次市民会議が平成20年に発足しますが、自治基本条例が市民全体の憲法条例なので、議会は別途自治基本条例との整合性の中で「議会基本条例」を作っていこうとの動きになります。
 有志議員9名で平成19年11月に「議員提案条例研究会」を組織します。市議会としても平成20年5月に「議会基本条例検討委員会」を設置し、20回程度の検討会や市民の意見聴取などを経て、自治基本条例を追い抜く形で平成21年3月定例会で全会一致で可決成立、4月から施行となりました。全国30番目の議会基本条例だそうです。
 自治基本条例の方は、平成21年6月に第2次市民会議の最終案がまとまり、9月市議会での議案上程、議決となり、同10月からの施行となっています。
 
◆『議会基本条例』の内容

 自治基本条例と議会基本条例は、条文を添付します。
 このうち議会基本条例の作成過程でのポイントとして次の7項目が挙げられています。
(1)住民参加 公聴会や審議会は当然の事として、土曜議会(経費が増えるのに集まりは従来の人達と変わらず、中断しています)、議場でのコンサートなどを試みています。また通年の議会開会日を出来るだけ早く決定しています。
(2)情報公開 議会報に議員全員の議案賛否を掲載します。ケーブルテレビでの放映などに努力しています。全員協議会も傍聴を原則公開としています。
(3)説明責任 画期的な試みとして市民に対して「議会報告会」を議員に義務づけています(後述)。
(4)自由討議 活発な議員間同士の自由討議を尊重し、執行部に反問権も付与しています。
(5)政策立案 議員個人に4年で1つぐらいの政策提言を目標にしています。
(6)監視機能 一般的な規定です。
(7)緊張保持 執行部と議会のなれ合い禁止です。
 
◆地区毎の議会報告会の開催
 この10月から市内8地区に「議会報告会」を全議員が出身地区にかかわらず、出席を義務づけています。20人の議員を4班各5人で編成し、添付の報告会資料はありますが、執行部を同行させず、議員だけで市民への説明と意見聴取を行います。
 「これによって議員さんが勉強を強いられるようになりました」とのお話しですが、市政全般に亘って質問が来ますから、議員さんは大変です。実績では各会場に25人〜90人が集まったとのことです。また、議会報にも議案毎の賛否が掲載されますが、会場ではその理由など、細部に亘って議員は説明責任を果たさなければならない事になります。
 
◆最後に
 栃木市の議会改革は緒に付いたばかりですが、議員個々の、政策提言や説明責任を強いられることになります。議会の全員が賛成しての取り組みですが、傍目で見ていても相当に議員の勉強が強いられそうです。逃げたい人もいたのでしょうが、これだけ自分自身に課題を背負い込むには相当の覚悟が必要そうです。
 次の選挙で、この結果がどんな形で現れてくるのか注目に値します。
                     以上
               
 
2009.12.17.
文責 石井 仁志