木曜評論

(日経連タイムス)

 

日経連タイムス1997.3.13に掲載されたコラムです.

 

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『現代理系学生気質』

村野井徹夫

茨城大学工学部メディア通信工学科・教授

316-8511 日立市中成沢町4-12-1

FAX:(0294)38-****(学科事務室)

e-mail mailto:*******@mx.ibaraki.ac.jp
 
目立ちたがらずマイペース

 筆者は、一九六七年(昭和四十二年)に奉職以来、この三月でちょうど三十年を経過しようとしている。その間、電子工学科・電気電子工学科・メディア通信工学科という学科に勤めてきた。従って、『現代理系学生気質』といっても、いわゆる電気系学科≠ノ所属する学生に限定した観察結果ということになる。しかも、被観察者は、常に二十歳前後の学生であって、筆者の学生を見る目には変りがなくても、観察者(筆者)は毎年確実に加齢してきたために、学生の筆者に対する意識としては、最初は兄貴分であったものがいつのまにか親父の年代を過ぎ、今では大伯父くらいに感じているに違いない。

 最近の学生の出身地は偏差値で振り分けられて受験する結果、全国にまたがっている。また兄弟が少ないために就職する時は親元に帰ろうとする。大企業といえども個人の我儘は聞き入れられないと言っていては、人の採用は儘ならなくなる時が来るに違いない。更に、電気系学科も女子学生が二割近くも入学する昨今では、女性の処遇も重要となる。

 学生は、今も昔も遊び好きである。しかし昔は麻雀のように何人かで群れたものであるが今はマイペースである。他人の都合に合わせよう等とは考えない。遊びに限らず生活そのものがマイペースなのである。コンパをしようとしても、バイトを優先させて全員集まることなどまずはない。現代の遊びは一人で楽しむものが中心で、たまに群れてカラオケに行っても誰かが歌っている時は次に自分が歌う歌の選曲をしていて、他人の歌など聴いてはいない。やはり本質的にマイペースなのである。バイトも生活が豊かになった結果、昔のように本代や食うために稼ぐのではなく車やCD・パソコン・飲み代にまわす金を稼ぐためのものである。その車も遊びとともにバイトに必要なのである。要するに、より良い生活を楽しむためのバイトである。中には我々教師の前でバイト先と携帯電話で打合わせする者さえいる。

 このように遊び・バイトに忙しい彼らが勤勉でないかというと、大抵は真面目である。昔は、二期校コンプレックスというものがあったが、最近の学生で途中で挫けてしまう者は、これも偏差値で振り分けられて入学してくる結果、本当は医学部に入りたかったとか学科のイメージが違っていたとか、或は、夜昼取り違えて生活のリズムを狂わせてしまった場合がほとんどである。

 真面目といえば、多くの学生は必ずしも最後まで出席するとは限らないものの、開講される授業科目のほとんど全部の履修申告をする。しかし、選択科目ならば、宿題が多かったり出席の厳しい科目は期末試験までにはかなり受講者が減ってしまう。質問も滅多に授業中にすることはなく、講義の後で一人で質問に来ることが多い。自分だけ目立つことを好まないもののようである。電気系≠フ学科ならば、専門科目の演習問題を自分で解いてみないと力がつかないものなのに、自ら手を動かそうとはしないから、宿題を出したり演習に力を入れることになる。その結果、敬遠されるのである。学生にとって良い授業とは関西のお笑いタレントのように面白おかしく話をしたり、机に座っているだけで頭に入って来なければならないもののように思っているらしいと思うと空しくなることがある。

 

卒業研究着手で急成長

 このような学生も、卒業研究に着手すると大きく変身する。昔とは科学技術の発展の度合が異なり、最初は論文を読ませたり研究内容を理解させるのに手がかかるものの、卒業するころにはいっぱしのことを言うようになっている。学生の柔軟な発想と柔軟な対応能力に脱帽である。筆者は未知のことを解決する力をつけることに卒業研究の主眼を置いているので、内容そのものに大して期待はしていない。しかし、多くの場合期待以上の成果をあげるのである。従って、卒業研究着手以前に就職活動をせざるをえない現状には不安を感じている。