岩手県立盛岡第一高等学校1960年卒在京同期会
在京白堊三五会・エッセイ(佐藤勇夫)

  『死後』をテーマにした重いテーマの投稿を戴きました。

  感想を「掲示板」へ書くもよし、関連した文章を「投稿」するもよし。 “そのような”年齢に差し掛かっています。
どなたかから“反応”があればいいですね。尤も、このサイトは格式ばったものではないのですが、テーマがテー
マなだけに“気軽に”ともいかないことも事実です――管理人――




「死後の準備」

 タイトルが穏やかでないが、知人が使った言葉で考えさせられることがあっ
たので、拙文を認めることとした。

 1週間ほど前に我が家にドイツから知人がやって来て2泊していった。ドイ
ツからと言ってもドイツ人ではない。日本人である。但し、奥さんが美人のド
イツ人である。知人とは30年ほど前に仕事上で付き合いが始まり、今日に至
っている。長い付き合いになったものだ。勿論気が合うというか波長が合うと
いうか、それなりの理由があるが、美人の奥さんの存在が大きかったような気
がする。正直言ってその奥さんに会いたいという気持ちは常にあった。

 知人は我々より10歳ほど年上で、奥さんは我々より数歳若い。詰まり一回
り以上若いのである。知人は若い頃東ドイツにプラント建設で赴任し、そこで
奥さんに出会い、結婚したそうだ。多分40年は前のことと思う。ベルリンの
壁が存在した時代であり、結婚したと言っても知人の帰国と一緒に日本に来ら
れなかったそうだ。1年待ってやっと東ドイツを出国出来たということである。

 奥さんは日本に20年以上生活し、日本語もペラペラである。知人の定年退
職に伴い、ご夫妻は奥さんの故国であるドイツに移住し、デュッセルドルフ近
郊に居を構えた。それは10数年前のことである。1994年の私のドイツ・
デュッセルドルフ勤務に伴い、付き合いが再開し、一緒に旅行も楽しんだ。そ
んな仲である。

 前置きが長くなったが、今回の知人の一時帰国は知人の言葉を借りれば「死
後の準備」ということになるようだ。即ち、知人亡き後、日本の遺族年金を奥
さんがスムーズに受け取ることが出来るように社会保険庁と事前に協議し、必
要書類を整えて置きたいということであった。確かに、日本語で書かれた遺族
年金の申請書類をドイツ人である奥さんが書けるとは思われない。今回、社会
保険庁に数日通い、その準備は出来たようだ。死亡日時のみ空欄にしてあり、
死んだ時にはその空欄を埋めてデュッセルドルフにある領事館に持ち込めば事
が進むようにした、とのことであった。縁起でもないが、万一の時は我々夫婦
がお手伝いすることは約束した。

 この知人夫妻には子供さんが居らず、知人も自分の死後のことが大変心配に
なり、その準備のために一時帰国を決意したようだ。国際結婚はそれなりに興
味をそそられるが、最後の段階でこんな問題があるのか、と思った次第である。
又、奥さんに対する深い思いやりを感じると共に、果たして自分は考えている
だろうか、と反省した次第である。

 この話しは、意外な方向に進むことになった。家内が知人からこの話しを聞
いて我々(もしかして私だけ)の「死後の準備」が気になり始めたのである。
急に墓苑を見に行こうと言い出した。私自身は以前より考えていたが、家内も
息子も全く興味なく、数年前に墓苑の見学を提案したが、けんもほろろに拒絶
されていた。家内の気が変わらない内に、ということで、知人を送り出したそ
の足で墓苑3ヶ所を見て回った。思いがけず「死後の準備」が出来そうである。

 墓苑を見て回って(今回初めて見て回った)いろいろと考えさせられた。新
興の墓苑は区画を広く確保出来るためであろうか、豪勢な墓が其処此処にあっ
た。しかし、墓誌を見れば働き盛りの40代、50代で亡くなった方々のもの
が多く、墓は立派でも長生きしなければ意味ないな、とつくづく思った。又、
幼くして亡くなった子供の墓は、おもちゃやらお菓子やらが供えられており、
涙を誘うものであった。

 先日見たテレビ番組で「最近の墓事情」というのがあったが、その中で生前
は離婚に踏み切れなかったので、死後は旦那と同じ墓には入らず「死後離婚」
したい、と言っていた女性がいた。現に墓苑見学の時に説明員が「旦那さんに
内緒で自分だけの小さな墓地を確保している奥さんが居られますヨ」と言って
いた。又、年金分割は「生き別れ」より「死に別れ」の方が遥かに有利だから
焦るな、というのもあった。

 人間長生きしなければいけないな、ということと、「死後離婚」にならない
ようにしなければならないな、というのがこの拙文(長過ぎたが)の結論である。
白亜35年会各位、大丈夫ですか。

                      2007.3.21(彼岸の中日)
                         佐藤 勇夫