岩手県立盛岡第一高等学校1960年卒在京同期会
在京白堊三五会・生産性新聞・寄稿記事by横澤利昌

 2008年4月15日号1面「組織とヒトの行方A」
 亜細亜大学 教授 横澤利昌(見出し)老舗企業に学ぶ組織とヒトの関係




『老舗企業に学ぶ組織とヒトの関係』・・・(見出し)

                     亜細亜大学教授 横澤利昌


 平成不況どん底の時期、100年以上継続する老舗企業600社の業績をみると、
3割が右肩上がり、5割弱が横ばいであり、老舗は不況に強いという結果を得た。そ
の理由を調べてみると、三つのことが分かった。

 第一に、企業が存続するには、その経営理念である「存在目的」と「倫理目的」が
必要であるが、日本の老舗には、現代経営理念の原型があった。@先義後利(義を先
にして利を後にするものは栄える)、A富山売薬商人の先用後利(まず使ってもらい、
代金は後払い、顧客の利益を優先・信頼)、B近江商人の三方よし(売り手よし/買
い手よし/世間よし)などが挙げられる。
 小江戸といわれる川越市にある菓子屋の『亀屋(創業1783年)』は、創業200
周年を記念に、八代目店主の山崎嘉正社長が「社業は世の進歩に順ずべし」、「全て
の人に親切に」という経営理念を作成した。それは、「顧客、働く人々、取引先、原
材料などにも全て親切であれ」ということである。社長自ら、従業員に倫理目的の意
味を、いつも口をすっぱくして教育しているという。老舗は謙虚でなければ地元から
愛されない。まず地元から愛されないと長続きしない、という。

 第二に、老舗企業の強みは事業の拡大よりコスト意識にあった。老舗と新興企業と
を比較してみると、「コスト削減」、「商品の改良・開発」、「新生産技術の開発革
新」では老舗が多く、「事業の拡大・多角化」、「企業の買収・提携」では新興企業
が多いという結果が出た。多角化には、手間・暇・コストがかかりリスクも大きい。
新製品は初期には宣伝もするし目新しいため売れるが、長続きしない場合が多い。そ
の時点で、本業は競合他社の熾烈な競争を忘れがちである。

 第三に、老舗企業は伝統(守るべきもの)と革新(変えるべきもの)のバランスに
長けていた。守るべきものは、顧客第一に基づく経営理念、本業重視、品質本意、従
業員重視、危機管理等である。変化に応じて変えるべきものは、商品・サービス、技
術、販売チャネル、新規事業、家訓の解釈等であった。
 120年の歴史をもつ『花王』は世界のトップシェアで売上高800億円あったフ
ロッピーディスクから撤退し、本業の洗剤等をより強化している。ちなみに「アタッ
ク」は1987年以来、20回の改良を重ねている(NHKスペシャル)。
 神社仏閣を建設・修復する『金剛組』は世界一の長寿企業である。578年創業、
飛鳥時代から1430年も継続している。本業を守り続け1400年以上続く要諦は、
その組織にある。金剛組は110人の宮大工から成り立っているが、8人の棟梁の下
で8組の集団が役割分担をして競いながら互いに匠の技を磨き、それぞれの組が次世
代へと技を継承している。総元締めの金剛組は代々資材と場所を提供して8組の棟梁
をまとめている。創業当初から契約書はない。信頼でなりたっているのである。しか
し 2006年1月、金剛組は高松建設の傘下に入った。家訓の「神社仏閣に集中せ
よ」を破り、マンションに手を出し負債を抱えてしまった、と39代金剛利隆顧問は
語っている。

 老舗企業から学ぶことは、全体を長期的視点でながめ、時間をかけて誰にも負けな
い技術、あるいは仕事上の分野で強みを持つ必要があるということだ。それに安住す
ることなく、それを絶えざる創意工夫をして変革していくことである。その結果、信
頼と自己のブランドが確立され存在目的にもなる。
 また、「先義後利」の「義」とは正しい道のことで、キリスト教では「地の塩」
(塩は腐敗を防止するもののたとえ)であり、そこから外れると老舗といえども生き
残りがむずかしい時代といえよう。
 さらに、組織というのは、共通の存在目的とコミュニケーション、そしてやる気が
あるかで成り立っている。経営理念が浸透するためのコミュニケーションは簡単では
ない。それは永遠のテーマであり教育の基本でもある。組織形成の中核であるコミュ
ニケーション、つまり人格と人格の響きあいが皆のやる気をかもし出し持続的成長を
もたらすものと考える。極めて、マネジャーの人格と役割が重要である。