−ユーモアとはにもかかわらず笑うことである−
                                                                    河越保久

 この言葉は、上智大学名誉教授のアルフォンス・デーケン先生から教えていただいた、ドイツの有名なユーモアの定義です。

 日々希望を持って充実した毎日を過ごしている人でも時として、悲しみや苦しみに遭遇することがあります。病気になったリ、愛する家族を失ったリ、思いもかけない出来事が起こって戸惑ったリ。そんなときにも「自分は今苦しんでいます。にもかかわらず相手への思いやりとして笑顔を示します」という意味です。さらにユーモアには恐怖や不安を和らげ、緊張をほぐし、感情を静めて自分を客観視して笑い飛ばせる効用があるそうです。

 私がユーモアの大切さに気付いたのは母の介護のときでした。入院を嫌った母はずっと在宅でケアを受けていました。訪問看護士さんにも親切に看護してもらい、穏やかな日々を過ごしていましたが、亡くなる一月ほど前に体調を崩し、起きられなくなってしまったのです。日に日に体カも弱リ、いのちの限界を考えざるをえなくなった私たち家族は、母の望んでいた自宅で最後まで介護する道を選択したのです。しかしそれは同時に不安や緊張を抱えての介護でした。

 そんなある日、娘が一晩母のそばについてくれました。翌朝、お疲れさんと声をかけた私にこんな話をしはじめました。「夜中におばあちゃんが目をつぶったままなにか言ってるので、聞いてみると、亡くなったおばあちゃんの妹の節子さんの名前を呼びながら、そろそろ迎えにきてほしいって何度も言ってたの。でも今迎えに来られるのはイヤだと思ったので耳元で、節子さんはまだ迎えに来られませんって言ったの、そしたらおばあちゃん、ビックリした顔で目を開けたの」。

 この話を聞いた私は大声で笑ってしまいました。こんな時に何事かと言われそうですが、本当に心の底から笑えたのです。すると不思議なことに、私の中にあった不安や緊張感がスーっと消えていったのです。娘のユーモアに助けられた私は、「よし、最後まで看よう」そう決心できました。

 それから十日後、家族の見守る中、母は節子さんのもとへ旅立っていきました。

 「にもかかわらず笑う」この言葉から私は、大切なことを学んだように思いました。

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