お知らせ
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好きなものは好きなんだから、しょうがない。
…はぁ…。ちょっと飽きてきたなぁ…。 つか、テストが明日に迫っているってのに、テスト勉強そっちのけで店の手伝いに入っていたから、しょうがないと言えばしょうがないんだけど。…でも。 「…百目鬼。お前、いい加減帰れ…」 プリントの問題を集中して解いていた百目鬼に、俺は声をかけた。すると、百目鬼は怪訝そうに眉間に皺を寄せて俺の方を向く。 「ん?」 「もう、いいから。こんな時間だし、お前は帰って寝ろよ。…お前まで俺に付き合って、徹夜で勉強しなくてもいいんだし…」 「あぁ」 そう俺が言うと、百目鬼は何のことを言っていたのか合点がついたらしく、再びプリントに目を戻した。 「まぁ、そうだな。…だが、テスト範囲や押さえるべきポイントはまだたくさんあるぞ?。今回のテストは、授業中にノートしなかった所からの出題がほとんどだろ」 「うん…」 たしかに、配られた出題範囲のプリントにはそう書かれていた。 最近、生徒の大半が単位計算をして、授業をさぼるのがあまりにも目に見えて目立ってきたため、教師達の間で期末テストは授業に出ていた生徒達の正答率が上がるように工夫された問題を出すように採り決められたらしい。 そう言うわけで、一週間ぶっ続けで学校を休んでしまった俺は、テストが明日に迫っている今日、貫徹で勉強しないと確実に赤点候補者の仲間入りになってしまうんだ。 「…お前、先週ずっと休みっぱなしだったから、このままだと赤点確実だぞ…」 「う…、ん」 けど、ありがた(迷惑)なコトに、皆勤賞の百目鬼がこうやって力になってくれている。 「特に、この長文読解は、下駄点取るためにあらかじめ配布されたものだ。そして、こっちが…」 ―――…はぁ。…いい加減、休みたい…。 時計の針を見れば12時半。で、勉強を始めたのは5時ぐらいだったから…。 …7時間以上ぶっ続けで、勉強はどうかと思うぞ…。 流石にこれだけ勉強していれば飽きてくる。けど、百目鬼のヤツは集中力が並はずれて高いらしく、いつまで経っても小休止を入れる気配はない。まるで 拷問 耐久レースのように黙々と、俺にテストの要点を教え込んでくれていた。 …いや、ありがたいといえばありがたいんだけど、俺には俺のペースってものがあるんだってーのっ!!。ちったぁ、休ませろよっ!。さっき小休止を入れようと提案したら却下されたしっ!!。 でも、あれから10分も経っていないのに休みたいと根を上げるのも、根性無しみたいでシャクだし…。 …あ〜あ〜。こんなんじゃ、集中できねぇよ…。良くこんなに何時間も集中できるよなぁ…百目鬼のヤツ。 チラリと隣を見れば、問題に目を向けながら俺に丁寧に解説をしている百目鬼の姿が映る。 …しっかし、コイツってば。…本当に良い顔立ちしてるよなぁ…。 「はぁ…」 俺はそれを視て、思わず感嘆の溜め息を漏らした。 細眼でツリ目だから一見、顔のメリハリは無さそうに見えるけど、実は鼻は高いし、彫りは深くて顎は鋭角だし、つり上がり気味の眉毛なんか意志が強そうで頼りがいのある漢って感じだし、俺とは全く正反対な外観で、男性的なその姿がマジで羨ましい。 …けど一見、性的に淡白そうなコイツのこの唇が、この手が外見裏切って、あんなコトするなんて想像もつかないなぁ…。 「うっ!!」 いきなり脳内に、今まで百目鬼に散々されてきた数々の淫猥な記憶が、もや〜んっと生々しく思い浮かんできた。 ―――…うわぁぁぁ!!。 …こんな時に何かんがえてんだよ、俺っ!!。 …こんな時に、変なコト思い出すなよ、俺っ!!。 と、脳内で苦悶し激しく悶絶中の俺に百目鬼は気付いたらしく、無表情のままに眼を合わせ聞いてきた。 「何だ…?」 「べ、別に、何でもねぇよっ!!」 考えていたことが考えていたことなだけに、俺は居たたまれず、ぷいっ。っとそっぽを向いた。 「そうか。…じゃぁ、この問題なんだが」 どう見ても集中力散漫で、何でも無いワケじゃないだろう俺の不審な行動を気にもせずに、百目鬼は表情を変えることなく問題を出してきた。 …ってか、問題を出すんじゃなくて、答えを先に教えてくれ…。 どう考えても俺が赤点を免れるには、それしかないような気がする。だって、英語の下駄点はこの長文読解の問題で各自自分で和訳してくれば15点はもらえるらしいし、古文の問題なんて係り結びとか助動詞とか中心でほとんどがゴロ暗記だし、数学なんて所詮その場のひらめきだから最初から捨ててるし。 けど、百目鬼はそういったズルは、俺には絶対にさせてはくれない。それを俺は知っているから、あえて答えを教えろなんて言わないでいるんだけれど…。 …でも、マジでもう限界…。頼むから、せめて休ませてくれ…。 とりあえず、あと10分位したら、もう一度「限界きたから、休ませろ(有無を言わせぬ命令形)」って言ってみよう。 …あと、10分かぁ…。長いなぁ…。 俺は胡乱な眼で、なかなか進まない時計の針を見る。…ああ、ちっとも進みやしない。 時計との睨めっこに飽きた俺は、再び百目鬼に目を向けた。 …はぁ…。やっぱり、良い顔立ちしているよなぁ…。 黙々と自分の勉強に打ち込む百目鬼の横顔に、思わず俺は見入ってしまった。 …唇、わりと薄いんだなぁ…。 ゴツゴツとして分厚い筋肉質な体躯のせいで、どことなく硬い感じのする百目鬼の体だけど、唇だけはとっても柔らかくて優しいカンジがして、キスをするたびにいつも意外に思う。 …キス、したいなぁ…。 はっきり言って、キスは嫌いじゃない。って、いうか、むしろ好きかもしれない。 百目鬼は、「好き」とかそういう愛の言葉を、俺にかけてくれたことなんて、今まで一度もないんだ。いつも済し崩しにエロいコトまでやらかしてはいるにも関わらずにだ!。 男という生き物は、女みたいにムードや愛情で満ち足りるワケじゃない。本能的にも根源的にも最終的には肉欲を欲してしまう哀しい生き物なんだ。 つまり、キスの時くらいなんだよ。肉欲とかものの弾みとか、そういった男の生理云々を抜きにして、“俺って、コイツに本当に愛されてるんだなぁ〜”って、思えるのは。 「…はぁ…」 なんだか、何度も何度もかなり物欲しげな眼で、じっと百目鬼の唇ばかりを見つめてしまう。 …俺から“キスしたい”なんて言ったら、怒るかなぁ…。 いや、コイツの場合、十中八九怒るだろうな。“時と場合を考えろ!”とか言って。 「…はぁ…」 「…さっきから、なんだ…?」 「へっ!?。なっ、なんだって、何が?」 俺の食い入るように見つめる視線に、ずっと気がついていたのだろう。いい加減にしろとばかりに百目鬼は、キツイ口調で言葉を投げてきた。 「何でもないわけないだろう。俺の顔ばかり穴が開くほど見やがって。いい加減ウザイぞ。勉強する気あるのか?。気にいらないことがあるのなら、言えばいいだろう」 「いや、別に…」 やましいコトを考えていた俺は、しどろもどろと言葉を濁す。 「別に、何だ?」 「うっ…」 しかし、百目鬼は、聞き流す気がさらさら無いようだ。 「何がそんなに、気に入らないんだ?」 更に詰問口調の百目鬼に、俺は諦めたかのようにもう一度深く溜め息を吐くと、渋々と答えた。 「はぁぁ〜…。いや、その〜。…お前の顔がさぁ…」 俺がそう言うと、百目鬼は自分の顔をさすりながら首を捻る。 「俺の顔?。…が、なんだ?」 「いや、あの」 「ん?」 「…お前の、顔が…」 あまりの言いにくさに、俺は少しうつむいた。すると、百目鬼は勘違いしたらしく、近くにあった鏡を手に取ると、自分の顔を確認する。 「あぁ?。俺の顔に、飯つぶか何かがついているのか?」 俺は、少し慌てて否定した。 「えっ!。あ、いや、違くて…」 「はっきりしろ」 特に短気な方ではない百目鬼も、流石に痺れを切らしてきたらしい。俺は、少し赤くなりながら、言いにくい言葉を打ち明けた。 「…顔が、あの…、なんつーか、その…。…キレーだなー…と、思って…」 「………は?」 俺がそう言った後、少し間をおいてから、百目鬼は聞き違いでもしたかのような訝しげな表情をする。 俺は両手をきつく握ると、意味が良く判っていない百目鬼に向かって声を荒げた。 「だ〜か〜らっ!!!。お前って、ほんっっと顔 だけ はイイよなって、言ってんだよっ!!!」 何かが吹っ切れた台詞を吐き出して、満足した俺は開き直り、フンっとふんぞり返って百目鬼を睨み付けた。 百目鬼は驚いているらしく眼を見開いて、ぽかーんとしている。…けど、 ………にやっ。 「いっ!?」 しばらくすると、驚いたかのような表情が一変して、すっげ企ん気な笑顔に変わった。 「なっ、何だよ」 …何だか、とてつもなく嫌な予感がする…。 背筋にゾワッっと寒いものが走り抜け、一瞬にして俺は、怯えたかのような逃げ腰状態になった。 けれど、ここで怯んだままじゃ、俺のプライドが許さない。 俺は、奥歯を噛み締めると、キッとヤツを睨んだ。 すると百目鬼は、ニヤニヤとしながら俺の顎に手を添えると、素のまま顔を上げさせられた。 「?」 「…お前は、カワイイよな」 「………ぇ?」 …いま、コイツ、何て言った…。 あまりの唐突さについて行けなかった俺は、脳みそだけではなく全身をフリーズさせた。 「そんな上目遣いで睨んでも、カワイイだけで迫力が無いぞ」 百目鬼は相変わらずニヤニヤしながら、俺の顎から手を外すと、そのままその手でカチコチに固まってしまった俺の額を小突いた。 「ばっ…!!?」 5秒停止後、小突かれた痛みで意識を取り戻した俺は、ようやく脳内リンクが繋がる。繋がったと同時に、顔が赤々と茹だりだした。 …や、やばい…。…ど、どうしよう…。 何だか頭までグラグラと茹だり、その熱に顔をゆがませると俺は、スッごい困り顔をしながら額を抑えて叫いた。 「ばっ!。…ばか…っ」 …からかわれたってコトは、判ってる…けど。 「…ばっかじゃ、ねーの…っ?。つか、百目鬼…、お前、馬鹿だろっ!!」 …スゲー、嬉し…い。 けど、心とは裏腹に、俺はいつもの条件反射で憎まれ口を叩く。 「…そっ、そんな、男がカワイイなんて言われて嬉しいワケ、ねーじゃんかぁ……」 ゆでだこ状態なせいか、今一、迫力を持たせることに失敗して、だんだんと語尾が小さくなってしまった。 「…いや、十分にカワイイという形容詞が、お前には似合いだと俺は思うが…」 「もういいっ!!。それ以上、お前、何もいうなぁぁっっ!!!」 熟視した後に発せられた痛い言葉に、俺は耳を塞ぐ。が、意地悪な笑顔でほくそ笑んだ百目鬼は、言葉をやめる気がさらさら無いようだ。 嬉しいのと気恥ずかしいのとごっちゃになった感情に苛まれて半ば半泣き状態の俺は、そのままヤツを放置して無視を決め込もうかとしたが…。 仕舞いには、とんでもないことを百目鬼は口走ってきた。 「特に、×××が、××××している時の顔とか、その時の××…」 「うっぎゃぁぁぁぁぁ!!!?。お、お前、なんっつーコトをっっ!!!」 まるで瞬間湯沸かし機にでもなったかのように、頭から湯気でも出そうな勢いで俺の体が真っ赤に火照った。俺は、慌てて百目鬼の口を両手で塞ぐ。 「…」ニヤニヤ。 しかし、百目鬼は俺の方をみたまま楽しそうに、いかにも変なことを考えていますって顔で笑い続けている。手のひらから、ヤツの唇の形が伝わってきた。それが、なんだか妙に艶めかしいものに思えて、俺は百目鬼の口を塞いでいた両手を慌てて外す。 「うっ、うぅ〜〜〜っっ!。前言撤回!!。お前、腹の底からムカツク!!!」 そう言うと俺は、なんだか気恥ずかしくて。ヤツを直視できなくてそっぽを向いた。 しばらく真っ赤になったままそうしていたが、いつまでもそうしているワケにはいかない。 俺は、罰が悪そうにチラリと百目鬼に視線だけを向けた。すると、百目鬼は鼻で笑う。 「安心しろ。ウソだから」 「なんだとっっ!?」 百目鬼の不遜な態度に腹を立てた俺は、思わずムキになってヤツの胸ぐらに掴み掛かろうとした。 しかし、俺が百目鬼の方を振り返る寸前、ひょいっとヤツにメガネを取られる。 「な、何すんだよ!?」 一瞬にして霞んだ視界に、目を慣れさせようとパチパチ瞬きを繰り返していると、百目鬼がそれをかけた。 ―――…ドキッ☆!。 思わず俺の心臓が、音を立てて跳ね上がる。 だって百目鬼のヤツ、普通に両手でメガネをかけずに、まるでメガネのCMに出てくる俳優みたいに、片手でスッと耳に掛けたんだ。 …かっ、カッコイイ…。 その姿が妙に様になっていて、俺はメガネを取り返すことも忘れて、ほけ〜っとヤツに見入ってしまった。 そのままずっと凝視している俺に、左目の裸眼でも見える距離まで顔を近づけると百目鬼は、含み笑いをしながらメガネを人差し指で意味ありげに持ち上げた。 「お前…、俺の顔好きだろ?」 何故かその動作にいやらしさを感じた俺は、後ろに後ずさりながら答える。 「すっ、好きじゃねぇよ!!」 「そうか」 すると、百目鬼は特に気分を害した様子もなく、首を伸ばすと俺の唇にちゅっと、軽いキスをした。 「ひゃっ!」 不意打ちのキスで固まっていた思考回路が復活するや否や、慌てて唇を両手で押さえると、俺はプルプルと震えながら小動物のように身を縮込めた。 まるで過剰とも言える俺の反応に、百目鬼は満足そうに笑うと俺の手首を握る。 「じゃぁ、なんでこんなにドキドキしているんだ?」 俺の手首から動脈を触知した百目鬼の手を、俺は勢いをつけて振り払おうとした。 「知るかっ!!」 しかし、百目鬼の手は俺の手首から離れなかった。むしろ、きつく俺の腕を握り込む。 「ちくしょ――…っっ!!!」 俺は、額に青筋を立てながら、ブンブンと腕を振ってそれを意地でも外そうとした。 「…四月一日…」 「わっ!!」 何を思ったのか、百目鬼は掴んだままの俺の手首をグイッと引っ張る。 俺は慣性の法則に従い、百目鬼の胸板に顔面から突っ込んだ。 「ンぶっ!!。…なっ、何しやがる…っっ!!?」 強かに打ち付けてしまった鼻をさすりながら起きあがると、そのまま百目鬼のかいた胡座 ( あぐら ) の上に引っ張りあげられる。 そして、逞しい腕が俺の体を交差したかと思いきや、ぎゅっと後ろから抱きしめられた。そして、顎を捕まれて首を捻させられると、またキスされた。 「ふん…っ。んっ」 後ろから腕をまわされているせいで、無理な体勢を強いられてしまっているにも関わらず、俺は抵抗らしい抵抗もしないままヤツの唇を受け止めていた。 「ん…あ…」 長くて濃いキスに、捻っている首がだんだんと痛くなってきた。 流石にその体制が辛くなってきた俺は、百目鬼の唇を舌で押し戻し正面を向く。 「…はぁ、はぁ、はぁ…」 首の不快感が少し和らぎ、ホッとしていた俺の頬に百目鬼は舌を這わせた。 「…んっ!!」 思わずその刺激にピクンと反応し、俺は肩をすぼめる。肩をすぼめると今度は、百目鬼のヤツ、俺の耳を舐めてきやがった。 「やぁ…っ!!」 確かに俺は、キスしたいなぁ〜…とか、思っていたさ。けど、流石に今日は、キス以上は願い下げだ。 キスの気持ちよさに思わずそのまま流されても良いかな…とは、一瞬チラッとは思ったけど、そんなコトをシていたら、明日のテストは目に見えて悲惨な結果になるだろう。 「こっ、こんなところでサカってんじゃ…、ねぇ、よっ!!。この、節操なし!!」 不味いと思った俺は、慌てて両手をきつく手を握ると、思いっきり肘鉄をヤツの肋にかました。 ドスっと痛そうな音がすると、百目鬼の顔が少し苦痛に歪む。 「しかたねぇだろ。こっちはサカってお前に手を出さないように必死こいて勉強に集中していたってのに、お前、俺の理性を逆なでするようなことしやがったんだからな」 「だからって…っっ!!」 百目鬼は俺の両腕を強く抱くことで拘束すると、そのまま服を脱がしにかかる。 その手際の良さに唖然としていると、簡単に前ボタンを全開にされ、さらにズボンのジッパーまでもが下げ降ろされてしまった。 「こっ、…こんな格好で…」 百目鬼の胡座の上に乗って後ろから抱きかかえられているせいで、俺の格好が今、どれだけハズカシげな姿かをまざまざと見せつけられている気分だ。 普段は百目鬼に床に押しつけられて、半ば強引にコトを進められるから…。百目鬼の体に隠れて、自分がどういうふうに裸に剥かれていくのか判らない分、照れも少ないらしい。 ゆえに…、…今の俺は、ムチャクチャ恥ずかしいんだよ…っっ!!!。 …それに…。 「…や…。やだ、やだ、やだ、いやだっっ!!。ヤメロ、百目鬼っっ!」 俺の体を拘束する腕とは逆に、しきりに俺の平坦な胸を撫でていた手がゆっくりと下に降りてゆき、腹部を通り過ぎて更にその下をたどる。 慌てて俺は膝を閉じ、それ以上下に降りてくるのを阻止しようと藻掻く。が、百目鬼の手は難なく俺の下着に到着するや否、すぐには下着の中に手を潜り込ませずに、面白そうに薄布に浮かび上がる俺の形をなぞった。 「…っ、くっ!」 それを見ていられなくて、俺はきつく目を閉じる。が、しかし、逆に眼を閉じると感覚が百目鬼の手に集中し、ジワジワとした緩い快感を追い求めるかのように意識が働いてしまう。 しかも、やばいことに俺の腰に、百目鬼の硬いモノがあたっている。いつもそれに貫かれている俺の体は、その快感を知っている。そのせいもあってか、心とは裏腹に俺の体はヤツのモノを飲み込みたいと訴え、あちこちがジンジンと熱を帯びてくる。 「…でも、こういうのも。お前は好きだろ…?」 「あっ!!」 布の上から百目鬼の手が、俺の立ち上がってきたモノを包みヤワヤワと揉みしだく。 体の奥底から発生してきた熱が、下腹部に集中してきた。俺は、その快感の渦に引きずり込まれ無いように、きつく奥歯を噛み締めて、漏れて出てきそうな甘い声と、理性を裏切りそうな体を必死で引き止めた。 「こういうふうにいじられるのは、案外好きだろ?」 「好きじゃないっ。やめろっ、てばっ!!」 「そのわりには、ココはいつもより早く立ち上がってるぞ?」 「うわぁぁ〜っ!!。おまえ、…お前、最低っっ!!」 …最低…っ!!。っと、もう一度呟くと、何故か俺の目からは涙がポロポロと溢れてきた。 その雫が、百目鬼の手にポトポトと滴り落ちると、百目鬼の手が止まる。 「今日は、やけに抵抗するな…」 いつものように無し崩しに抱いてしまおうとしていた百目鬼は、よもや、俺に、泣くほど抵抗されるとは思っていなかったのだろう。 いきなり泣き出した俺を、おどろいたかのような顔つきでじっと見る。 「当たり前だ!!。この手をどけろよ!!。馬鹿野郎っっ!!!」 「……」 涙を振り払い、顔を真っ赤気にして本気で怒っている俺に、百目鬼は罰が悪そうに両手を引っ込めた。 「…悪かった」 と、小さく呟きながら、百目鬼はかけていたメガネを外すと、俺の耳にかける。 百目鬼の手が外れたと同時に、俺は百目鬼の膝から飛び降り、はだけて乱れていたシャツをギュッと掴むと、ギッとヤツを睨んだ。 「…、仕方がない。勉強に戻るか」 百目鬼は少し残念そうに眉をひそめると、さっきまで復習していたプリントに目を戻す。 俺は、少し慌ててヤツの袖を引っ張り、涙混じりの声で叫んだ。 「いやだ!」 百目鬼がワケが判らないと言いたげに、顔を歪めた。 「あぁ?。…じゃぁ、どうしろと…?」 俺は、引っ張っていた百目鬼の袖をギュッと握りしめ、俯いて言いにくそうにモゴモゴと籠もりながら話す。 「…いっ…、イヤだけど、イヤじゃないんだよぉ…」 「なに?」 上手く聞き取れなかったのか、不機嫌を隠そうともしない百目鬼の眉間に皺が寄った。 「…あれじゃ、なんだか、…俺、一人でしているみたいじゃんか…っ」 俺はもじもじと恥じらいながら、俯いた顔を更に隠すかのように百目鬼の腕にそっと、額を寄せた。 「それに、あれじゃ俺からは、…お前が見えないじゃねーか…」 脳みそが、ヒートオーバーしそうに恥ずかしい。 けれど、ここでビシッと言わなきゃ、朴念仁で唐変木の百目鬼には、一生伝わるコトはないだろう。 俺は恥ずかしいやら情けないやらで、グチャグチャになってしまった泣き顔を上げると、百目鬼に向かって残りの言葉をぶつけた。 「お前が見えなきゃイヤなんだ、よ。…ばかぁっ!!」 そう俺がそう言いながらヤツの体をドンッと叩いて睨み上げると、百目鬼は薄い唇を笑みの形につり上げた。その笑みに気を取られていると、唇に柔らかな感触。そして、百目鬼特有の清い匂いが鼻を突く。 「…ん…っ」 気がつくと、俺は畳に横倒しにされて、百目鬼に組み敷かれていた。 百目鬼が体をずらして、俺の首筋に軽く歯を立てる。 「っ…あ…」 言いたいことや言わなきゃならなかった事がまだまだ沢山あったが、俺はその言葉を飲み込むと、胸や腰を這い回る百目鬼の手の動きに集中した。 百目鬼の手が、完全に立ち上がっている俺のモノにかかる。 俺はハッと息を飲むと、これから与えられる強い快感に一瞬怯え、ギュッと百目鬼の首にすがりついた。 俺のモノを包み込んだ手を、百目鬼は上下に擦り上げる。それだけで、俺の脊髄に電流のような流れが駆け上り、下腹部は吐き出したい熱で充満した。 亀頭の先から滴りだした俺の密が、百目鬼の綺麗で長い指を濡らしているのだろう。次第に擦り上げる手の動きは俺の粘液の潤滑作用でスムーズになっていく。 「あっ!。…あぁっ!!」 快感に酔いしれた体が、トロトロに溶け出す感覚に、俺は思わず我を忘れて、百目鬼の耳元で熱い吐息を漏らした。すると、百目鬼の手は上下にしごく動作をやめて、更に深い部分に指を這わせる。 「…あっ」 ヌルついている指が、ズブズブと難なく入ってくる感触を後腔で感じ取り、そのゾワゾワとする感覚に、思わず俺の腰が動いた。 「…く、ぅ…っ!!」 すでに何度も百目鬼と交わり、結合する喜びを知っているその場所は、ヤツに指を入れられただけで、普段では想像できないほど柔らかくなる。今では貫かれることに体が慣れてしまっているせいか、すぐにでも入れて大丈夫なそこは、初めて交わったときのあの痛さがウソのように今では思えるほどだ。 後腔を動き回っていた手が、ズルっと出て行った。今度はそこに、もっと大きな質量を含まされると覚悟をしていた俺は、もっときつく百目鬼に抱きつく。が、すぐには入って来なかった。 「…え?」 それどころか、身を起こした百目鬼に抱えられ、ズボンをはいたまま、再びヤツの胡座の上に座らせられる。 驚いて腕をゆるめると、ニヤニヤと笑う顔がすぐ鼻先に見えた。 「お前ホント。…こういうときは、物凄くカワイくなるよな…」 「五月蠅い!。だまれ、馬…かっ!!。…っ!?」 憎まれ口を叩く俺の前髪を掻き上げると、百目鬼は俺の額にもキスをする。 「…あ、…どうめ、き…?」 何故か唇ではなく、おでこや目元といった場所にばかり子供のような可愛いキスをする百目鬼を不思議に思い、見つめる。 「お前、キスは好きなんだな。…知っているか?。お前は、キスの時だけは抵抗をしていないんだぞ」 「…え?」 …そうなのか?。 と、思いつつ首を捻る俺に百目鬼は、鼻先にキスをしながら囁く。 「やっぱり、自覚なかったか」 指摘されて気がついたその事よりもむしろ、意外に俺の事を良く見ている百目鬼に驚いた。 「う、…うん…」 俺は頷き、照れながらそっぽを向く。 「…コレが好きなのか?」 百目鬼が俺の頬に、優しく唇を押しつけてきた。 とっても優しいキスに、気分がフワッと柔らかくなる。俺はそれを心地よく感じて、緩く瞳を閉じると呟いた。 「…うん…。…スキ…」 …キスだけじゃ、ないけれど…。 「…やけに素直だな…」 意地悪な言葉攻めをしていた百目鬼は、意外そうに俺を見る。 そんな百目鬼を俺は、悔しそうに睨み付けた。 「しょうがないだろっ!!。好きなものは、好きなんだからぁっ!!!」 …お前の顔も、…手も、…体も、…声も、…仕草も、…全部…。 悔しいけれど、…すごく、好きだ…。 だから、 「…だから、お前にこーいうコトされても、…許せてんじゃねーか…」 ふて腐れて、拗ねたような言い方になってしまったけれど、構うもんかっ!!。 俺はヤツの肩にコテッと額をのせて深く息を吸い込むと、悔しくて唇を噛んだ。 そうやってムスッとしていると、百目鬼のニヤついた笑いが肩を伝って俺に伝わってくる。 無性に恥ずかしくて居たたまれなかった俺は、再び百目鬼の体を強く抱きしめた。 すると、百目鬼もゆっくりと俺の体に腕をまわすとしっかりと抱きしめてくれる。 …あ。 …なんだか、今。 …俺たち、本物の恋人同士みたい…。 背中に回された腕がとても熱くて、なぜだか酷く胸が切なくなった。 「…わかれよな、その位…」 どうしてか、そう呟いた俺の声は、 泣いているかのように 沈んで暗かった。 「……四月一日…」 束の間の静寂の後、百目鬼が俺の頭を頬で撫でるようにすり寄せながら聞いてきた。 「なら、…このままスルか?」 「こっ、このまま…!?」 俺は驚いて顔を上げた。 だって、今、俺の体は百目鬼の膝の上に乗せられていて。 しかも、密着している体の間には硬くなったモノ同士が触れ合っていて…。 …つまりそれって…。 騎乗位。 …と、いうものであって…。 俺はそう確信するや否や、真っ赤になり、ブンブンと首が痛くなるほど横に振った。 「いっ…やっ、やだ、嫌だっ!。無理っ!。無理っ!。絶っっ対に、無理っ!!」 「嫌がるばかりじゃなく、たまには試してみたらどうだ?。…好きなんだろ?」 「そ、そう言う意味じゃねぇっ!!」 慌てて俺はヤツから逃げようと、腰を浮かした。しかし、百目鬼は、立膝になった俺の腰をそこから逃げられないように片手で掴む。 後悔しても後の祭り。俺が腰を浮かした隙間から、百目鬼はもう片方の手で自分の硬く起立したモノを、ズボンから引きずり出してきた。 「げっ!!」 目下にあからさまな欲望を見せつけられて、俺は目のやり場に困り、焦りながら視線をそらせた。 「お前はどうしたいんだ?。…四月一日…」 「ぅわっ!」 百目鬼が俺の手を、硬く起立した欲望へと導く。 無理矢理触らせられたその部分は、熱をはらんで強く脈打ち、俺を欲していた。 その様をまざまざと見せつけられ、俺の喉がゴクンと音を立てて鳴る。 「四月一日。…俺は、シタイ…」 「どっ、…百目鬼…」 百目鬼の眼差しの中に、雄のギラギラとした欲望を見つけた俺は、どうしようか迷いに迷った。 だって、騎乗位っていうのは、俺がヤツの上に乗っかって、俺が動かなきゃならないんだろ?。 …そっ、…そんな、浅ましいマネ…。 できるわけ無い。と、言おうとしたが、百目鬼が俺の胸や腹に口づけてきた。 「…う…っ」 何だか犬みたいに鼻を押しつけたり、舐めたりしながらお預けに耐えているのだろう百目鬼が、無性に可愛く思えて…。…無性に愛しく思えて…。 …あぁっ。んっもうっっ!!。 ガバリと抱きしめて頬ずりしたい衝動を必死で抑えながら、俺は触れていたヤツのモノから手を引くと、上体を起こした。 「…四月一日…?」 まるで、体を遠ざけるかのように身を起こした俺を、百目鬼が残念そうに見上げる。 …結局は、コイツに絆されてしまうんだよな…、俺って。 俺は思わず深く溜め息を吐くと、既にジッパーの降ろされているズボンに手をかけた。 「…百目鬼…。お前、俺をその気にさせるのが、上手すぎやしないか…?」 そう言いながら、ゆっくりとズボンと一緒に下着も降ろしていくと、百目鬼の目が驚きに見開かれる。 「…今日だけ、特別、…な?」 モゾモゾとしながら片足だけをズボンから引き抜くと、下肢に冷たい部屋の空気がまとわりついた。 そのヒンヤリとした空気が、妙に羞恥心を煽るが、逆に何だかそれが俺を興奮させる。 吐く息がだんだん荒くなってきた。目元も何だか熱い。 ふと、百目鬼を見ると、百目鬼も俺と同じくまだ何もしていないのに息が上がっていた。 「…どうめき…ぃ?」 何だか食い入るように俺をじっと見る百目鬼を、俺は首を傾げて見遣った。 「…今日だけ、特別なんだろ?」 ニヤニヤとしているがとても嬉しそうなその笑顔に、カァッと体が熱くなり、俺は何だか酒に酔ったかのような陶酔感を味わった。 熱に浮かされてボーッっとしたまま俺は、ピクピクと怒張しているモノに手を添えると、処女とは違い淫乱にヒクつくそこにあてがう。そして、ゆっくりと自分の体重をかけると、ズブズブと肉壁に軽い抵抗をかけながら、ヤツのモノは俺の中に埋没していった。 「くっ!。んっ、あっ、。…はぁ…っ!!」 ゾワゾワと背筋を駆け上がる快感に、俺は思わずヤツの首に腕をからめると強く抱きしめた。 「四月一日、…まだ、全部入ってないぞ…」 肉棒が食い込んで広がっている入り口を、百目鬼の指がヌルヌルとなぞる。 「や、ぁんっ!。…も、…むりぃ…」 入り口を刺激された快感で震えながら、やっとの思いでその言葉を口にした俺は、そのままガチガチに固まってしまった。 「そうか、…なら…」 「…ふぇっ!?。…いっ、あぁっっ!!」 百目鬼の太い腕が俺の体を強く掻き抱いた。かと思うと、そのままヤツは俺の体を深く抱き込み、強制的に俺の中に自分のモノをくわえ込ませた。 俺の体の奥で百目鬼のモノがピクピクと脈打つ感覚が伝わってくる。自分の体重プラス百目鬼の腕力で打ち込まれ、かなりの深さに到達してしまったソレは、いつもよりも激しく猛々しい雄の象徴に思えた。 「…はぁ、はぁ、はぁ、…鬼っ!!」 俺は体に汗をびっしょりとかきながら、百目鬼を睨む。 百目鬼は俺の怒りなど、どこ吹く風といった感じで鼻にもかけぬまま緩く腰を動かしてきた。 「しょうがねぇだろ。あのままじゃ、ラチがあかねぇ。…それに…」 言葉を区切ると、百目鬼は声のトーンを代えて、俺の耳元で囁くように呟いた。 「お前を見ているだけで、イきそうだったからな」 「…んっ!!!」 いつもより低めで、とても情欲をかき立てるその声に俺の体は震えると、下腹部が快感でキュウゥっと締まる。 「…くっ…、四月一日…」 その締め付けに、胎に入り込んでいた百目鬼のモノも反応したらしく、百目鬼が顔を歪めた。 …うわぁ…。 ひどく漢らしい顔が快感で歪められ、そのもの凄くエロい表情に俺は、それが自分が与えている刺激でそうなっていることが信じられないくらい嬉しい。 …俺に、感じてくれているんだ…。 何だか自分が与えられている側ではなく、与える側に立っているせいか、とてもとても嬉しくなった。 心の奥底から、ジンワリと愛おしいという気持ちが広がっていく。 「…んっ。…んんっ!!」 …もっと、いっぱい感じて欲しい…。そう思った俺は膝に力を入れると、おずおずとだが動き出した。 最初は、小さく胎内で百目鬼のモノを揉みしだくように動いていたが、次第にそれがだんだんと物足りなくなり、ズルズルと内腔から引き出す時の抵抗力と、胎内に押し入れる圧迫感を強く求めるようになってくる。 しかし、はたっと、俺ばかりが快感を求めるように動いている様な気がして、俺は乗っかってしまっている百目鬼に聞いた。 「どう、め、き…」 「…どうした?」 むさぼるような腰の動きをパッタリと休めて、フニャッと不安そうに見つめる俺を、横になったままの百目鬼が見上げてくる。 「…なぁ…。キモチ、イイ?」 「…?」 怪訝な顔をする百目鬼に、俺は、今にも泣き出しそうな不安な気持ちを抱えた胸に手を当てて、小首を傾げながらもう一度聞いた。 「なぁ、…お前はちゃんと…。その…。…キモチ、イイ…か?」 すると、俺に真摯な視線を向けたまま百目鬼は、薄い唇を笑みの形にし、激しい情欲を含んだ掠声で答える。 「…ああ、凄くイイ…」 切ない胸の気持ちを溶かす百目鬼に言葉に、俺は我知らずに微笑んだ。 「そっか…。良かった…」 そして、愛おしいという気持ちを込めて、百目鬼にキスをする。 「うれし、…い…」 「…くっ!!。…四月一日…!!」 「…んぁっ!!」 唇を離して百目鬼の耳元で囁いたら、胎内で脈打つ百目鬼の形が、極限まで大きくなった様な気がする。 俺は百目鬼の腹部に動きやすいように手を添えると、さっきまで繰り返していた動作を再開した。 「…んんっ。…ああっ!。百目鬼っ!!」 脊髄を通って頭の中に伝導してきた快感に支配された俺は、腰を上下させるだけでなく発情期の猫のように腰を揺さぶり、もっと百目鬼から伝わる刺激を求めた。 「…四月一日…!!」 「んぁぁっ!!。…百目鬼!!!」 百目鬼が、強く俺の名前を呼んだ。俺は、俺を欲するその声に触発されたかのように、体を震わせると、最奥まで百目鬼のモノを胎内に埋没させてそのまま果てた。 俺が果てると同時に、百目鬼も俺の中に熱い固まりを注ぎ込む。 「…はぁっ、はぁっ、はぁ…」 俺は荒い息をつきながら、パッタリと百目鬼の上に力なく倒れた。 「…四月一日…。大丈夫か?」 気遣わしげな百目鬼の手が、俺の頭を撫でる。 俺は、小さく頷いた。 「ぅん。…大丈夫…。だけど…」 「…?」 「なんで…、なんで、こうなるんだよ〜〜〜〜っっ!!!」 しらふに戻った俺は、あまりにも情けなさすぎて、そのまま思わず泣いてしまった。
☆
「四月一日ったら、ばっ、かっ、ねぇ〜〜〜」 テスト勉強をしている俺の目の前に座った侑子さんは、持っていたキセルで俺の額をつんつんと突く。 こめかみをヒクつかせながら、俺は軽くそのキセルを指で押し戻した。 「…侑子さん…。あの、…いい加減、出て行ってくれませんか…?」 「どうして?。ここは、私の店よ。私がどこにいようと、私の勝手でしょう?」 「ううっ…」 ここは、侑子さんの店の中の一室。 とりあえず、今日のテストは赤点は免れたものの、見事に散々な結果に終わった。 昨夜の情事をさすがに反省した百目鬼からの、今日もテスト勉強に付き合ってくれるという申し出を断り、代わりにヤツが授業中に教師の話をメモっていた教科書を没収して、俺はこうして侑子さんの店に避難している。 「ホントに、おバカよね〜。四月一日って。思春期まっただ中の男と、しかも密室に二人きりなんて、絶好のシュチュエーションだし、何にもナイなぁ〜んて、まず、フツーにあり得ないでしょ?。…その位、考えなかった?」 「…いや、っつうか、…必死こいて勉強する俺に、流石に何もしないかと…」 そう俺が言うと、侑子さんは言葉に間を持たせた後、ぼそりと一言つぶやいた。 「…されたんだ…」 「うっ!!!」 俺が言葉に詰まると侑子さんは、嬉しそうに両手を合わせて、満面の笑顔で笑う。 「されたのね?。しかも、かなりしつこく」 俺は思わず白くなりながら、勉強机代わりにしていたちゃぶ台に持っていたシャーペンと教科書をボタッと落とした。 …ああっ!!。俺のバカーーーーっ!!。 「変だと思ったのよ。テスト期間中なのにウチに泊まらせてくれって、いきなり言い出すんだもの」 俺の様子から肯定を受けた侑子さんは、ニヤニヤとした笑顔をさらに深める。 「四月一日。“何もしないから”とか言って、好きなコに本っっ当〜に何もしない男なんて、この世にいると思う?。むしろ、いつでもやる気満々でしょ?」 「…ううっ」 侑子さんの言葉に否定できない俺は、背中に嫌な汗をかきつつ頭を抱えた。 「ほらほら、ちゃんと集中して勉強しないと、明日のテストもボロボロよ?」 俺に頭を抱えさせた当人であるにもかかわらず、侑子さんはいけしゃぁしゃぁと言いながら、俺の頭に落ちた教科書を載せながら立ち上がった。 「あ、そうそう。この場所を提供する対価は…。そうねぇ…。とりあえず、勉強の気分転換程度でいいからその辺の掃除を宜しくね」 「…は、…はい…」 …や、やっと出て行ってくれる…。 俺いじりをしていた侑子さんが、障子をあけて部屋から出て行く気配に、俺はほっとしてため息をつきつつ肩の力を抜いた。…が。 ピシャリと障子が閉まる寸前。ニヤニヤと笑いながら振り返った侑子さんが、要らぬセリフを置いていった。 「…ほ〜んと、愛されてるわねぇ。…四月一日」 ――――ガゴッッ!!!。 思わず俺は、ちゃぶ台に額を打ち付けた。 廊下から遠ざかっていく侑子さんの足音と、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。 俺は、両の手をグッと握ると低く叫んだ。 「…ち、畜生っっ!!。畜生っっ!!。あれもこれも全部、百目鬼のせいだっっ!!!」 もうこの際、責任転嫁だろうとかまうまい。俺の怒りの矛先は、天下無敵の侑子さんではなく、やりたい放題やりやがった百目鬼に向けられた。 …百目鬼のヤツは、犬だ!。おあずけすらもろくに出来ない駄犬だっ!!。 …駄犬(ヤツ)には、躾が絶対に必要だっっ!!。 「しばらく、…セックスレス決定!!」 したたかに打った額をさすりながら起き上がった俺は、この場にいない百目鬼に向かってボソリと宣言した。
終了 平成18年6月29日
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あとがき
どもども☆。HOLiC スキーの皆様はじめまして。 仕事っすよ。 ウチの職場、拡大しすぎて看護師不足になっちゃって、でも、給料安くて休み少ないから、 新しい病院の教育担当になりました…。って、 ちょっとまてーぃっっ!!!。 私は単なる、パート勤務の不良看護師だってーのっ!!!。 ぶっちゃけ、看護師やるつもり、ないんだってばぁぁぁ!!!。 けど、どうやらパートの時間内でやるため、結局、パート内容で、時給も上がらず…。 はぁ…。 「辞表は今出しても、来年の四月にやめてもらうことになりますから」…だって、 ってか、あり得ない事だらけなんだけどね。この病院事態が。
あ、話がそれた(汗)。いや〜、最近どうも仕事上のストレスが酷くてさぁ…。 さてさて、この小説なのですが、この小説も相も変わらずネタ提供は砕牙です。 私は、どんなに考えても18禁小説は創れないみたいです。
それでは今回はこの辺にて、失礼いたします。 ふえふく猫 金沢 智 拝。 〜奥付〜 初回発行 平成18年1月8日 |
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