「水戸で声劇CD発売します」とか、言ってましたが。 ので、CDに収録するはずだったおまけ小説を無料配信中!!。
|
手を伸ばせば、とどく距離。
喧嘩した。 そりゃ、いつも口を開けば不平不満の喧嘩腰だし、優しい言葉をかけるなんて滅多にない事だけど…。 いつもいつも、憎まれ口ばっかり叩いてしまうけれど。 …でも、俺は、喧嘩がしたい訳じゃないんだ…。
移動教室の途中、廊下でひまわりちゃんを見つけた俺は、条件反射どころかまるで神速級の早さで彼女に声をかけた。 「ひまわりちゃ〜ん♪」 「あ、四月一日君」 俺が後ろから呼ぶと、ひまわりちゃんはゆっくりと振り向き、にっこりと微笑みかけてくれる。俺は、彼女のこの振り向く瞬間がとっても好きだ。何故ならヒラヒラと制服のスカートをひらめかせて振り向き、ちょっと驚いたような表情がフワリと微笑みに代わる。そして、子猫のように小首を傾げて俺を見つめるその姿が。…くぅぅ〜っっ!!。もうっ、可愛すぎっっ!!!。 俺は少し小走りでひまわりちゃんに追いつくと、彼女に歩調を合わせた。 「ねぇねぇひまわりちゃん。今日の放課後なんだけど、時間空いてる?」 「えっ?。空いてるけど?」 「じゃぁさぁ〜。駅前に新しくできたケーキ屋さんに、一緒に行かない?」と、言いつつ俺は“少し、唐突すぎたかな…?”と、心の中で汗をかきつつ思う。でも、そうは思うものの、折角、美味しそうなお店を見つけたんだし、可愛い可愛いひまわりちゃんと、どうしても二人っきりで行きたかったんだ。 だって、…いつもは、おまけの御邪魔ムシが約一名。ど〜してもついてくるから。 ヤツと違って、健全な高校男子であるこの俺は、ひまわりちゃんとの二人っきりの甘〜い時間を堪能したいんだよっ!。 「わ〜♪。行きたいっ。…けど、いいの?。四月一日君、バイトがあるんじゃないの?」 「今日は侑子さん、出張でいないんだよう〜v。ね、だから、一緒にケーキ屋さんに行こうっ♪」 そう俺が言うと、ひまわりちゃんは両の手を合わせて嬉しそうに笑った。 「わぁ、嬉しぃ〜。いつも四月一日君バイトで忙しくって、放課後誘っても来てくれないから…」 「うん、いつもゴメンね」 「あ、良いの良いの。代わりに百目鬼君が付き合ってくれていたから」 「…へぇ…。そうなんだ…」 俺は少し微妙な気持ちで、ひまわりちゃんの言葉に相づちを打った。 「うん、そうなの。あ、じゃぁ、四月一日君、百目鬼君はもう誘ったの?」 「えっ、いや、アイツは今日、試合が近いからって断られた」 てか、むしろアイツが俺たちの邪魔にならないように、今日こそ絶対ひまわりちゃんを誘おうと、用意周到に計画を立てたんだけど。 …う〜ん。百目鬼のヤツにまで気を配るなんて、やっぱり、優しくて良い子だなぁ、ひまわりちゃん…。それに比べて、俺って…。 ちょっと、自分の腹黒い部分が後ろめたいなぁ。 「そうなんだ〜。残念だったね、四月一日君」 「へっ!?。何が!?」 唐突にそう言われて、しかも、言葉の中に妙なニュアンスが混じっていたような気がして、俺は少し焦った。…が。 ――…にっこりvv。 可愛いひまわりちゃんの可愛い笑顔に、俺は瞬時に悩殺される。 へらっ。 ――――…まぁ、いいか。 俺は顔の筋肉を緩ませると、深く考え込みかけた思考を中断し、目的地に着くまでの、束の間の楽しい時間を堪能した。
「おい、四月一日」 移動教室から戻る途中、後ろから硬質で不遜な声に呼び止められる。 振り向かなくても誰だか判る。けれど、後々コイツに五月蠅い小言を言われるのが嫌だから、一応振り向いてやった。 「…なんだ、百目鬼かよ…」嫌そうにそう俺が言うと、心なしか百目鬼の表情が険しくなる。 「さっき、九軒と何を話していたんだ?」 思わず俺は、眼を見張った。 「なっ!。お前、見ていたのか?。ってか、お前、教員室に呼ばれていたはずじゃ…。何で、あんな所にいるんだよっ!」 「話をそらすな」 ―――…むかっ!。 …なんだよ…。何なんだよ。お前の高慢ちきなその態度。しかも、なんで俺、お前にそんなふうに詰られなきゃなんないんだよ…。 「話をそらすも何も、…お前には関係ない話なんだから、何だって良いだろ!」 「……」 「な、なんだよっ」俺が吐き捨てるように言うと、百目鬼のヤツは俺を睨み付ける。その無言の圧力に、背筋に冷たい汗を感じた。そして、本能的に何だかヤバイと感じて後ろに後ずさると、俺はすぐにその場から逃げるように駆けだす。足の速さに自信のある俺は、到底追いつけまいと思っていた。 しかし、俺の走りに、百目鬼のヤツはすぐさま追いつく。 「うわぁっ!?」百目鬼に後ろから襟を捕まれて逃走を阻まれた俺は、驚いて両手両足を振り回し、ヤツから逃れようと必死に抵抗した。 「四月一日っ!」怒ったような威圧的な声が、すぐ頭上から聞こえる。 「ひっ!」っと、怯えて肩を竦ませると百目鬼の腕が、俺の体を束縛するかのように強くからみつく。 「痛っ!!」強く藻掻けば藻掻くほど、ヤツの腕は一層強く俺の体を締め付ける。その痛いほどの締め付けに肺が圧迫されて、思うように呼吸ができない。 「痛い…って言ってる、だろっ!。…離…せっ!。離せよっ!!」 上手く呼吸のできない俺は、切れ切れの言葉をやっと吐き出し、抵抗を阻まれた苦しさと悔しさに歯がみをしながら百目鬼を睨み付けた。 「ちっ!」っと、百目鬼の舌打ちする音がする。それと同時に、ぐいっと、髪の毛を無造作に捕まれ後ろに引っ張られた。 「うぁっ!」髪の毛を後ろに引っ張られて、首を仰け反らした俺に、百目鬼は無理矢理、唇にぶつけるかのようなキスをする。 「ふぐぅっ!。んっ、…んんっ!!」息つく間もなく乱暴に唇をふさがれて、俺は一瞬、何が起こっているか判らなかった。 「ふぁ。…はぁっ…」しかし、百目鬼のねっとりとした舌が俺の口腔内を這いずり回り、溢れだした唾液が俺の顎を伝い落ちたとき、やっと、自分の置かれている状況を知る。 「…ん…っ」しばらく身動きできずにいたせいか、俺の抵抗を阻んでいた百目鬼の腕が緩んだ。 「やぁっ!。…やめろよっ!。馬鹿野郎!!」俺はすかさず、百目鬼の束縛する腕から右腕を引き抜くと、暴力的なキスから逃れるために、渾身の力を込めてヤツの頬を叩いた。 ―――…ばしんっ!!っと、乾いた音が、広い廊下に響き渡る。 「…っ」百目鬼の腕が、完全に俺から離れた。 「…あ」俺は思わず、叩いた手を反対側の手できつく握りしめながら、二・三歩後ずさる。それが気にくわなかったのか、少し唖然としていた百目鬼の表情が、すぐさま険しいものに変わった。 「四月一日。こっちに来い」 「えっ、うわぁっ!!」 言葉は静かだが、明らかに立腹しているのだろう。百目鬼は、有無を言わせずに俺の腕をぐいっと掴むと、すぐそばの階段下の用具室に俺を投げ入れた。 「痛っ!」思わず俺は受け身をとったが、剥き出しのコンクリートの床では、どうやら意味がないようだ。硬いコンクリートの衝撃が、もろに背骨にあたる。 「痛てて…。何しやがるんだよっ!!」痛む背中に顔をしかめながら起きあがった俺を、百目鬼が上から覆い被さるようにして抱きしめた。 「…“関係ない”なんて、言うな…」 「はぁ?」 …唐突に何言ってやがるんだ、コイツ…?。と、一瞬、ヤツのことを馬鹿にしかけたが、心なしか悲しそうな声音に、俺は思わず百目鬼の顔を見ようとした。けれど、ここからではよく見えない。何だかヤツの顔が見えないせいか少し不安になってきた。抱きしめられている手を振りほどきたくても、何だかできない。 百目鬼が何だか、酷くせっぱ詰まっているような気がして、対応に困って抵抗を止めていると、いきなり耳の後ろを舐め上げられた。 「やめっ、あっ!!」 そして、言葉を流し込むかのように耳元で囁かれる。 「俺に、隠し事をするな」 「やっ!」囁きながら百目鬼は、俺の制服をゆっくりとたくし上げていく。俺は慌てて百目鬼のその手を止めた。 「何考えてんだよっ!!。ここ、どこだと思って…!!」 そう俺が叫ぶと、百目鬼は顔を上げて俺を睨み付けた。 「俺を…拒むな!!」 「…っ」俺を睨み付ける百目鬼の顔は、無体な扱いを受けている俺よりも、更に辛そうな表情に見える。…のは、俺の気のせいだろうか?。 「なんだよぉ…。お前だって…」俺はざらりとして硬い床に爪を立ると、唇を噛み締めた。 「?。…俺が、なんだ?」言いかけた言葉を俺が途中で言い倦ねていると、百目鬼が話を促してくる。何だか俺は途端に悔しくなって、皮肉まがいにヤツに言葉を叩き付けた。 「お前だって、俺に隠れて。…ひまわりちゃんと、デートしてたくせにっ!」 「はぁ?」 「俺、知っているんだぞ!。俺がバイトで忙しいとき、二人で仲良く放課後のデートを楽しんでいたって事!!。はんっ!。お前、外見裏切って意外と手ぇ早いもんな。…こんなガリガリの骨ばった野郎より、ふわふわした可愛い女の子が相手なら。…そりゃぁ…俺と違って、具合も良いだろうし、気持ちいいだろう、し…」 言いながら俺は、自分の言葉にどんどん自己嫌悪に陥っていくのを感じだ。 …そうだよ。どう考えたって、俺なんかよりもひまわりちゃんの方がコイツには似合っていて…。コイツだって寺の跡取り息子だし、俺なんかよりもひまわりちゃんの方が…。 「…うっ」じんわりと俺の目に涙がたまってきた。俺は、慌ててその様をヤツをに見られないように、顔を隠す。 「四月一日?」百目鬼の大きな手が、優しく俺の顔を包み込むかのようにして添えられ、ゆっくりと上を向かせられた。すると、すぐそこには百目鬼の顔がある。 精悍な顔つきで、濁りのない綺麗な眼で俺を見つめている。 …男の俺から見ても、腹が立つほどカッコイイ。 思わず見惚れていると、ジン…っと、胸が熱くなった。 …こんな男に、俺は抱かれているんだな。…って、いうか、コイツとじゃなきゃ、あんなコト、絶対にやらない。 「…そうだよ。…お前じゃなきゃ…っ!」 …畜生っ!!。男の俺から見てもこんなにカッコイイんだ。ひまわりちゃんや他の女の子達が放って置くはずないっ!!。 そう思った途端、頑張って頑張ってやっと溜めていた涙がボタボタあふれ出した。 「クソッ!!。お前だって、俺に隠れて…。俺にばっかり…。俺ばっかり何でこんな気持ちになんなきゃいけないんだよっ!!」 俺は思わず百目鬼の手を振りほどくと、ヤツの胸ぐらをギュッと握りしめた。 「四月…」 さっきまで険しい顔で俺を詰っていたはずの百目鬼が、訳が分からず眼を丸くして俺を見る。その表情でさえ、俺にとっては苛立つものでしかなかった。 「お前なんて、大っ嫌いだっ!!。馬鹿――…っっ!!!」 身も蓋もなく泣き叫びながら百目鬼を睨み付けると、俺は両腕で百目鬼の体をドンッ!。と突き放した。 「…四月一日…」 俺に突き放されてしばらく呆然としていた百目鬼は、睨み付けたままでいる俺の名を呼ぶと、ゆっくりと手を伸ばしてきた。 俺は、流れ落ちる涙を拭うことも忘れて、ヤツを威嚇する。 「触るなっ!!!」拒絶に近い言葉が、俺の口から吐き出された。 「…っ」すると、百目鬼の手がピタリと止まる。 しばらくそのまま、時が止まったかのような一瞬を体験すると、百目鬼がうつむいた。 「…悪かったな…」と、ボソリとたった一言だけ言うと、百目鬼は、俺を置いてその場から立ち去った。 ヤツがいなると、自然と涙も止まる。 「はぁ…」詰めていた息をゆっくりと吐いていると、黒い制服が埃で白く汚れているのが目についた。それをはたき落としていると頭が冷えてきて、やっと自分の状況を把握する。 …なさけねぇ…。 「…すっげぇ、情けねぇ…」 そう呟きながら奥歯を噛みしめると、止まったはずの涙が一粒だけポタリと落ちた。
「あ〜あ、折角ムリして授業に出たのに、全然集中できなかったなぁ…」 …それもこれも、みんな百目鬼のせいだ。 なんで、俺とひまわりちゃんが会話しているだけで、アイツが怒らなきゃなんないんだよっ!。だいたい、何で誰かがいつ来てもおかしくない学校の廊下で、キス…なんて仕掛けてくるんだよっ!。…百目鬼のアホっ!。常識知らずの、恥知らずっ!!。 「それに、だいたい、アイツの言い分…」 …隠し事しているのは、お前だろっ!!。たまには、俺の気持ちを考えろよなっ!!。 …って。あ〜あ、こんな考えだから、口を開けば憎まれ口ばっかり叩いてしまうのかもなぁ。 アイツがどこで誰と付き合っていようと、俺には関係ないコトなんだし…。 「さっきも…」 …つーか、俺、言いながら自己嫌悪に陥るって、どうよ?。 判っているさ。半分以上が俺の自己中心的な言い分だって事。…でも。 でも、考え出したら止まらない。 俺はひまわりちゃんみたいに可愛くないし、俺は男で、アイツも男で…。 本来、アイツに抱かれること事態が不自然であるはずなのに、俺がアヤカシの仔を腹に宿す事がないように、定期的に交わることで護ってもらっている訳だし…。 俺もアイツも、覚えたてだからかなぁ…。男だからしょうがないとはいえ、最近、二人きりになると必要以上にヤりすぎだし。う〜ん…流石に、ただれすぎでは…。 だからかなぁ…。ピュアピュアなひまわりちゃんに、こんなに憧れるのって。 「はぁ〜」ほんっと、男って不便だよ。いったん快楽を経験すると、またその快楽が欲しくなって。…歯止めが利かなくなる。こんなに悶々とした感情を抱えているクセに、夜中一人でいると、百目鬼のことがすごく恋しくなることがあるんだ。 「…っ」…まるで恋してる女の子じゃあるまいし、胸が苦しくなって。…すぐにでも、ヤツの所に行きたくなる事がある。 「…マジ、情けねぇ…」 こんな訳ありの体だから、…アイツは手近で身近な俺の体を、単に都合良く使っているだけじゃぁ…。 ―――…ポタッ、…ポタポタ…ッ!!。 何の前触れもなく、俺の眼から一気に涙が流れてきた。 「うわぁっ!。なっ、なんで!?」慌ててポケットからハンカチを取り出すと、それを頬に押しつけた。こういう場合は、目元を拭ってはいけないからだ。目元をぬぐうと、眼球と眼の周りが赤く腫れてしまってみっともない顔になってしまう。これから、ひまわりちゃんと美味しいケーキ屋さんで、楽しい一時を過ごすのに、流石に眼を腫らした顔では行けない。 止まらない涙にどうしようかと、悩んでいると、人の足音が聞こえてきた。 …うわっ!!。どうしよう、どうしよう!!。泣いているところ見られたら、すっげー格好悪いっ!!。 と、慌てていると、目の端に階段下の用具室の扉が見えた。 「…うっ…」百目鬼の前で散々泣いた場所だ。なるべくなら、ここには入りたくない。 でも、足音はどんどん近くなっていく。 「…くそっ!!」俺は腹を決めると、その倉庫の扉を開けて中に駆け込み、そっと扉を閉める。 「…ふぅ」扉を閉めると、俺は安堵の溜め息をつきながら、辺りを見回した。 部屋の中は電灯もなく湿気が充満し、 剥き出しのコンクリートの床の上には、使わなくなった机やイスが置いてある。しかも、ずっと前から放置されているせいか、少しカビついていた。普通だったらアヤカシがいて、ハエのように俺に群がってきてもおかしくない場所なのに、ここには俺一人しか見あたらない。 「…アイツのおかげ、か…」呟きながら、俺は壁を背にしてズルズルと座り込んだ。そして、ゆっくりと目蓋を閉じて、静かに涙が止まるのを待った。
『あれ?。ここ、どこだ??』気がつけば、いつの間にかに知らない部屋に立っていた。辺りをキョロキョロと見回すと、周りの風景が何だかはっきりとしてきた。 『あ、ここ、百目鬼の家だ』何でこんな所にいるんだろう?。と、不思議がっていると、すぐそばでフライパンで何かを炒めている音がした。そっちに目を向けると、そこにはフライパンでご飯を炒めている百目鬼が居る。 『ふ〜ん、けっこう意外だな…』百目鬼って、“男子厨房に入らず”って感じに育てられていそうな気がしていたから、料理をする姿なんて、ちっとも想像できなかった。 器用にフライパンを振ると、混ぜながら強火で手早く大量のご飯を炒め、ケチャップをつける。その姿が、いつも俺に昼飯をたかりに来るヤツとは全然かけ離れていて、しかも、料理が手慣れているように感じられたから、余計に信じられなかった。 『…俺、けっこうお前のこと知っているようで、知らなかったみたいだ』と、言いながらポンっと、ヤツの肩になんとなく触ろうとするが、スカと透過する。 『…あれっ?』今、百目鬼が避けたわけではなく、自分の手が透過してしまった様に見えたような?。 …これって、かなりやばいことだよな…。 俺が突然のことに狼狽えていると、盆の上にオムレツを載せた百目鬼が、スタスタと部屋を出て行く。俺は、慌てて後に続いた。 百目鬼が向かった先は、ヤツの自室だった。部屋に入るなり、ドカリとすわって 胡座をかくと、すぐさまオムレツに箸を付ける。どうやらヤツは、とても腹が空いていたらしい。あっという間に大量のオムレツは、ヤツの口の中へと消えていった。俺がその早さに唖然としていると、ヤツは食後のお茶をすする。 『早食いは、胃を悪くするぞ〜』と、なにげに俺が言うと、百目鬼の視線が俺に止まった。 『えっ…?』 「四月一日、いるんだろう?」 『っ!?。百目鬼!?。お前、まさか見えて…』 「いや、見えてはいない。ただ、お前の気配がさっきからずっと消えないから、まさかと思って声をかけたんだが。…いたんだな」 『う、うん…』 俺は、少しうつむきながら返事した。だって、昼間、あんな喧嘩をしたばかりだし。百目鬼から俺が見えていないとは言っても、やっぱり気まずいのには変わりないんだ。 「どうしてここにいるんだ、お前?」 淡々とした口調で、百目鬼が聴いてきた。いつもと変わりない口調に、俺は少しホッとする。 『さぁ…俺にも良く判らない。俺、どうしてこんな所にいるんだろう?』 「とりあえず、戻れ。今のお前はたぶん生魂だ」 『生魂?』 「生き霊のことだ。早く体に戻らないと、お前の場合、特にやばいんじゃないのか?」 そう言うと、百目鬼は俺から視線を外して、また茶をすする。 『あー…そうだな、うん。そうする。じゃぁな』 何のことを言われているか理解した俺は、立ち上がると、踵を返してその場から立ち去ろうとした。…しかし。 「どうかしたのか?」 『…なぁ、百目鬼。これって、どうやって戻るんだ?』 「はぁ?」 百目鬼のそばから離れようと意識するが、ある一定の距離から離れることができない。俺は、まるで鎖に繋がれた犬のようにその辺をウロウロとしながら百目鬼に言った。 『お前のそばから、離れられないんだけど…』 「なら、…俺のそばにいろ」 俺が困りながら言うと、すぐに百目鬼はそう言ってくれた。優しくもない百目鬼らしい不遜な声音だったけど、俺には十分すぎる言葉で。…胸の奥が暖かくなった。 『…うん』俺はゆっくりと百目鬼に歩み寄ると、ストンと背中合わせに座る。これは、普段なら絶対にやらないことの一つだ。 …広い背中だなぁ…。まぁ、あれだけ食べていれば体格も良くなるか。と、思いながら百目鬼の方を振り返ると、床についたヤツの手が視界に入る。ふと思って何となく、手を重ねてみた。…一関節分ヤツの方が大きいのが、少し悔しい。 「四月一日」 『うん?』 「昼間は、…悪かったな」 『えっ!?』 唐突に謝られて、俺は自分の耳を疑いそうになった。だって、いつでも自信満々で頑固者のコイツが、よもやこんなに素直にわびるなんて…。 「嫌がるお前を俺は、…無理矢理抱こうとしちまった」 『あっ…。う、うん…』 …“抱く”とか言うなよ。 俺は、思わず赤くなる。未だにこーゆー言葉は苦手だ。…いや、実際にヤってはいるけど。 「…こう言うと、取って付けた言い訳にしか聞こえないだろうが…。俺は、教務室を出た後、偶然、窓の外をみたら、九軒と談笑しているお前を見つけたんだ。その時、間が悪いことに後ろから女子共の声が聞こえて…」 『なんて言ってたんだ?』 「…“似合いのカップル”…だと言っていた」 『は?』 「俺はそれを聞いて、腑が煮えくりかえる思いだった。俺から見ても、お前らはとても仲の良いカップルにしか見えなくて…。それでつい、…カッとなっってお前に当たっちまった」 俺は、ボソボソと言いずらそうに言う百目鬼の言葉が、上手く理解できない。 『え…?。…なぁ、何でそこでお前が怒るわけ??』と、思わず聞き返した。 「…お前が、…っっ!!!」 言いかけた言葉を飲み込むと、百目鬼は両手をギュッと強く握りながら、低く唸るような声で台詞を絞り出した。 「俺は、…嫉妬深くて独占欲が強い、嫌な野郎だ。こんな俺だ。お前に愛想つかれても無理はねぇな…」 少し自分にあきれたかのような声音に、俺はハッとして顔を上げた。 『なぁ、お前…。怒ってたんじゃなくて…。もしかして、拗ねていただけ。…とか?』 単なる自分の思いつきだったけれど、どうやら図星だったらしい。その証拠に、百目鬼の首がどんどん赤くなっていった。 「悪いかっ!」耳たぶまで真っ赤にした百目鬼が、怒ったかのように叫ぶ。 俺は思わず笑ってしまった。 『ぷっ、くすくす…。なぁんだぁ。そうだたのかぁ。あはっ、百目鬼、お前って…
…意外と、可愛いのな…」 …あれ?、ここ、は…?。 呟きながら目を開けるが、そこには百目鬼は居らず、ただ目蓋を閉じているのと大差ない闇が広がっていた。 ここが用具室の中だと気がついたのは、寒さで体が動かないことに気がついた時だった。コンクリートの床にうつ伏せで寝ているせいで、俺の体温はほとんど奪われてしまっているらしい。起きあがろうにも、体が悴んで言うことを聞いてくれないでいた。 …ヤバイ…。俺、このまま凍死してしまうかも…。そう思っていたら、途端に体の中から悲しい声が聞こえてきた。 …寒い。冷たい。痛い。悲しい。淋しい。…会いたい。 じんわりと、涙が滲んできた。…俺、このまま死ぬのかなぁ。 …こんな事になるのなら百目鬼に、素直に謝っておきたかったなぁ…。
…あれ?。誰かが呼ぶ声がしたような気がする…。ああ、だけど、きっとこれも、夢…。
「ん〜」温かい。何だろうこれ?。 俺は、無意識のうちにソレに擦り寄った。 …サラサラしていて手触りも良いし、お香と同じ落ち着く匂いがする…。 すりすりと甘えるように頬をすり寄せながら、ふと思う。 …ん?。お香…って、いうかいつも線香くさいアイツの、匂いのような…?。 俺は思わず眼を開けた。…そしたら。 「っどっ!!!」眼前には、百目鬼の寝顔がドアップで待ちかまえていた。 …びっくりした。びっくりした。びっくりしたっ!!!。無駄にコイツ顔が良いから、スッゲーびびった。 ドキドキバクバクと早鐘を打つ心臓を落ち着かせながら、少し寒気を覚えた俺は、驚きでつい跳ね飛ばしてしまった布団をかけ直しながら、ゆっくりと百目鬼の隣に横になる。 「…もしかして、お前があそこから俺を助け出してくれたのか…?」そして、冷たくなった俺の体を、ずっとこうやって温めてくれていたのだろうか?。 …良く、寝てる?。 百目鬼がよく寝ていることを確認すると、俺はやっと落ち着き、ヤツの胸にゆっくりと額を押し当てて眼をつぶる。そして、いつもはプライドが邪魔して言えない言葉を呟いた。 「…百目鬼。俺の方こそ、ゴメンな…。あーゆーの、実は…嫌じゃない。けど、…俺、お前に迫られると…、あまりにも恥ずかしくて、…思わず錯乱しちまって、どうしても、…憎まれ口になっちまって…」 …ああ、ダメだ。これじゃぁ、単なる言い訳にすぎない…。 そう思った俺は、一度、言葉にするのをやめた。その代わり、寝息をたてながら静かに眠る百目鬼に擦り寄り、おこさないように両腕でヤツを軽く抱きしめた。 そうすると、百目鬼が、もの凄く愛しい存在に思えてきて…。 「お前も、お前がする事も、…嫌じゃない。むしろ…好き、だ」 初めて、“好き”、という言葉を口にした。 …うっわ〜っ!。うわ〜っっ!!。 俺は、自分の言った言葉にムチャクチャ照れてしまったみたいだ。だんだんと体が熱くなっていく。 俺は、居たたまれなくて、思わず腕に力を込めてしまった。 「…まだ、寒いのか?」気遣わし気な声が、すぐ上から聞こえてきた。 「えっ!?。お前、まさか起きていたのか!?」俺は驚きのあまりその場に固まりながら、ダク汗をかいた。 「いや、寝ていた」 「そ、そうか…」 「お前が起き出す前までは」 「って、起きてたんじゃんかっ!!」 ホッとしていたせいか、その後に来た不意打ちに、もろにダメージを受けた俺は取り乱し、勢いよく布団を跳ね飛ばすと、その中から逃げ出した。 「四月一日!」ふすまに向かって駆けだした俺の足首を、布団に横になったままの百目鬼が、ハシッと掴む。 「はっ、離せっ!。俺は帰る!!」足首を捕まれた拍子にスッ転んで強か膝を打ったがそれをものともせず、慌てていた俺は、ヤツの制止を振り切り、急いでこの場から逃げ出そうとジタバタ抵抗する。 「…その格好でか?」 「…えっ?」自分の格好を見れば、学ランは脱がされて、シャツにトランクスという姿だった。 「あれっ?。メガネはっ?。せっ、制服っ。制服は…!?」倒れたままの格好で首だけを動かして辺りを探すと、俺のメガネは制服ポケットの中で、制服は綺麗にハンガーに掛けられて壁に吊されていた。 それを取りに起きようとすると、のっそりと布団から起き出した百目鬼が、四つんばいになっていた俺の上に、のしっと乗っかってきた。 「うおっ!!」背中に突如として出現した圧力に負けた俺は、そのまま畳の上にベシャッと押しつけられる。 「おっ、おもい〜〜〜〜っっ!!。お前っ、いい加減に…っ!!」足をばたつかせながら言うと、俺の太腿に置いてあった百目鬼の手が、俺の足をなぞるようにゆっくり上に上がってきて、トランクスの隙間から腹と骨盤の境目を撫でる。 「ぁっ!!」俺は思わず、体を竦ませた。背中から百目鬼の暖かさを感じる。元々、人より体温が高い方なのだろう。素肌に直に触れてくる手はとても温かくて、心地よくて、もっと触って欲しくなってくる。 「もう少し暖まってからにしろ。まだ体が冷たいぞ」覆い被さっている百目鬼が、耳元で低く囁く。その声が、俺の背筋を戦慄かせてゾクリとさせた。 「あ…っ」 「ほら。…ここも」俺の首筋に、百目鬼が頬を押しつける。まるで子供の熱を測るみたいな仕草だけれど、逆にそれがいやらしく感じる。 「や、…やだ…」俺は、嫌がるそぶりを見せた。…が、百目鬼はやめるつもりはないようだ。 「ここも」腹を撫でていた手が上へと伸びてゆき、俺の胸板を弄ぶ。 「んんっ。…あっ」俺は、たまらず熱い吐息を漏らした。 「…お前が嫌なら、今日はここまでにしておくが…」 「んっ、…ばか…」胸を、…乳首ををいじりながら言うなっつの。 …俺がそこ、スッゲー弱いって知ってるクセに…。 俺は、少し潤んできた瞳で百目鬼を睨み上げながら、きゅぅっと困ったかのように眉根を寄せた。これは、抵抗したいけど、できないときに良くしてしまう表情だ。 そんな俺の顔を見ると百目鬼は、ちょっと困った顔をしながら俺のうなじにキスをする。そして、筋肉質の腕で俺の体を抱き上げながら言う。 「ほんの少しで良い。たまには、俺にも。…九軒に接する時のように、笑いかけてくれ…」 「百目鬼…」 後ろから抱きしめられながら起きあがると、そのまま百目鬼の膝の上に座らせられた。 …何だか、すっごく恥ずかしい格好では…。 百目鬼の腕は俺の腹部に背中の方から抱き留めるかのように回されている。俺は一瞬、恥ずかしさのあまり振りほどこうとした。が、この腕を振りほどいたら百目鬼が酷く傷つきそうに思い、対応に困っていると、俺の困惑よりも更に困惑したかのような声で百目鬼がボソボソと喋る。 「…嫌なら、無理にとは言わない…」 …また、拗ねたな…。 俺は、思わずクスリと笑ってしまった。 俺が素直だったら、気色悪いだろうっ!。とか、 そんなマネ、俺ができるわけ無いだろうっ!。とか、 いい加減、判れよなっ!。とか …言いたいことはたくさんあるけど。 俺の憎まれ口をいつも許してくれるコイツに、たまにはプライドを捨てて、素直になるってのも悪くないかもしれない。 「…百目鬼」俺は百目鬼の腕に自分の手を重ねると、体をよじらせて、ちょうど唇がとどく距離にある百目鬼の頬にキスをする。 「四月一日…」 「なぁ、百目鬼…しよう?」 少し照れ笑いをしながら、俺は百目鬼の腕を持ち上げて、ヤツの指先にもキスをした。 少し驚いたような顔で俺をマジマジ見る百目鬼に、俺は見せつけるようにヤツの指先を甘噛みする。 まぁ、驚いて当然だろう。大抵こういう行為に及ぶときは、百目鬼が済し崩しにコトを進めるから、俺は拒否するかそのまま流されるかのどちらかだったから。俺からこんなふうに誘うなんて事、まずあり得ない。ゆえに、沈着冷静な百目鬼であっても、青天の霹靂に戸惑っているようだ。 「んっ、百目鬼ぃ…。しよう、ってばぁ…」俺は、ハグハグと甘噛みしていた百目鬼の指を口に含んだまま、背中が痒くなるような甘い声で再び誘った。 「…四月一日…」少し頬に朱を引いた百目鬼が、口の中に入れた指を動かし、俺の舌をいじる。俺は、その百目鬼の指を口の中からペっと押し出した。 「?」百目鬼が、怪訝に眉根を寄せて俺を見た。俺は押し出した舌をそのまま出して、キスを催促する。舌を出したままの俺に、百目鬼はフッと薄い唇をつり上げて笑いながら、俺を持ち上げて対面に座らせた。そして、俺の舌に自らの舌を這わせる。俺は、安心して目を瞑ると、百目鬼に体を預けるように、体を密着させて腕を絡ませた。 「いつもいつも、優しくできなくて。…ごめんな?」しばらくキスを堪能した後、俺を布団に横たわす百目鬼に、素直に謝った。 今頃、…とは思うものの、今言わないといつまでも言えないような気がしたからだ。 しばらく俺の顔をジッと見ている百目鬼に、俺は布団に横たわったまま、小首を傾げてヤツの返事を待った。 「…俺の方こそ、…すまん…」数秒遅れて、百目鬼が頭を下げる。 「…うん」俺は、微笑みながらヤツの顔を上げさせた。そして、ヤツの頬や鼻先、唇にちゅっちゅと、子供がするような可愛いキスをする。すると、百目鬼はくすぐったそうに口元をゆるめた。 「四月一日…」俺が百目鬼の唇を甘噛みしていると、ヤツは俺のシャツを脱がしにかかる。ちょうどシャツを首までたくし上げると、今度はトランクスに手をかけてきた。 「やっ…」俺は慌てて百目鬼の手を止めさせた。だって、百目鬼のヤツ、シャツから胸を出したままトランクスを脱がせて、そのままコトを運ぶという事をたまにやらかすからだ。 そりゃぁ、同じ男として、そーゆーフェチでオヤジくさいシュチュエーションは萌えるさっ、確かにっ。でも、…でも、それを、この俺にするな―――…っっ!!!。 「…それ、あまりの痛さに、居たたまれなくなるから、やめろよなぁ…っ」へにょっと眉根を寄せて、トランクスを握りしめたまま百目鬼を見上げて懇願すると、ゴクっとヤツの喉仏が鳴った。 「…へ?」百目鬼の顔が、何だか余裕が無さそうに見える。って、当たり前だ。据え膳揃った布団の上で、これから抱く相手が、シャツから胸を出したまま、細い肩を頼りなさげにすくめて、少し震えながらトランクスを握りしめて、剥き出しの生足をモジモジさせながら、不安そうに上目遣いで見上げて…って。フツーに考えれば、下半身直撃モノだろう…。 だが、この時の俺はそんな事、思いもよらなかった。 百目鬼は、いきなり俺の足首を掴むと自分の肩に引っかける。 「ひぇっ!?」そして、そのまま俺の胸に唇を這わせたまま、俺のトランクスと太腿の隙間から手を差し込み、後腔の入り口をなぞり始めた。 「ちょっ、お前っ!!。…俺、まだ、服、着たまま…ぁっ!!」 「下だけ脱がされるのが、嫌なんだろう?」 「…そっ、そういう意味じゃ、な…ぃっ」乳頭を舌で刺激されながら、興奮して立ち上がった俺のモノを、百目鬼が無骨な手で撫でさする。 「もっ、…や、出る…」トロトロと俺の亀頭部分から滴り落ちてきた雫が、俺の後腔を濡らした。適度な潤いを与えられたそこは、冷たい外気に反応してかヒクヒクとひくつく。 「…ふ、ぁ…ああっ」 さっきまで前を撫でさすっていた百目鬼の手は、いつの間にかに俺の後腔に入り込んでいた。それに気がついたのは、指が増やされて、二本の指が狭い内腔を広げるかのように動いてからだ。 百目鬼の肩に足を引っかけられて、カエルのように足を広げさせられて、あまつさえ、トランクスをはいたままの格好で後腔をいじられている。その姿を考えるだけで居たたまれなくなる。 けど、…今は、それがいやじゃ無かった。 粘ついた水が胎内で掻き混ざる音に、背筋が戦慄く。…むしろ、イイと思える様にまでなってきた。 百目鬼の指が三本に増やされ、後腔にグリグリと深く入り込んだり、入り口をヌルヌルと出たり入ったりの動作を繰り返す。 「あっ!。…ああっ!!」俺は堪らなくなり、百目鬼の広い背中に腕をまわしてしがみついた。そして、そのまま百目鬼に、後腔だけでイかされる。 「…っ、んっ。…はぁ、はぁはぁ…」俺が、半ばグッタリとしながら息を整えていると、百目鬼の手が、俺の内股を撫でるように出て行く。何だか気恥ずかしくてヤツの肩から足をはずして閉じると、太腿の内側がヌルついていた。 …うわぁ…。自分が今、どんな格好か、想像したくない…。 きっと俺のトランクスは、湿り気を帯びて妙なシミができてしまっただろう。 「…やっぱり、脱がしていいか…?」 「だったら、最初から脱がせよ…。馬鹿ぁ」どうやら百目鬼にとっても、トランクスは邪魔だったようだ。俺はあきれかえりながら、百目鬼に不満を述べる。 「ったく、これじゃ俺、下着を着けずに家に帰らなきゃならないじゃないか…」 「…それはそれで…」ややニヤつき始めた百目鬼の頭を、俺は軽く叩いた。 「変態っ!!」それでも高校生のクセに、いやらしいオヤジ顔でニヤつくのをやめない百目鬼は、体を起きあがらせると、俺の目の前で見せつけるかのように、バサバサと着ていた服を無造作に全て脱ぎ捨てた。 …うわっ☆!!。そのエロくて漢らしいその動作に、俺の心臓は飛び上がる。 弓道部で鍛えあげられた体は引き締まり、まるで鎧のように硬い筋肉で体面は覆われていた。その巨体が、俺の上に覆い被さる。 こういう時の百目鬼は、いつもの何を考えているか判らない朴念仁な感じではなく、何というか…、なんて言えば良いんだろう。 とにかく俺は、まるで狼の前に差し出された羊のような気分だ。何故か心も体も、全部喰い尽くされそうな気になる。 …妙に迫力あるんだよな。ちょっと、コワイ…。 「どうかしたか?。四月一日」 「…う、ん〜ん。別に…」ジッと俺を見る百目鬼の視線が痛い。居心地悪くて、何となく握りしめていたシャツを脱ごうと試みる。モゾモゾと動いて、万歳をするような格好で頭を引き抜くと、腕にシャツを絡ませたままの俺に百目鬼がキスをする。 「ん…っ」キスが嫌いじゃない俺は、そのキスに応えた。俺が半ば意識を飛ばしてキスに夢中になっていると、百目鬼が俺のシャツとトランクスを脱がす。 一度イかされると、普段、青白く見える俺の肌は、快感の余韻で薄い桜色に変化する。その変化に更に追い打ちをかけるかのように、百目鬼は俺の肌に唇を這わせて、濃い桜色を体中に残していくのだった。 汗で湿り気を帯びていた俺は、少し肌寒さを感じたが、百目鬼がまるで俺の体を温めるかのように抱きしめる。すると、不思議と肌寒さは感じなくなった。なんだかそれがとっても嬉しくて。俺は抱きしめた百目鬼に、優しく言葉をかける。 「百目鬼。…良いよ、入れて…」俺自身、俺の口から、すんなりそんな言葉が出てくるとは思っていなかった。言った後、俺は照れてしまって、思わず百目鬼から腕を放してバッと両手で赤面している顔を隠してしまった。 「…四月一日…」笑いを含んだ声で、百目鬼が名前を呼ぶ。 「……なんだよ……」俺は、顔を覆い隠したまま、半泣き状態の固い声で返事した。 「…キス、させろ…」百目鬼は、俺の手を軽く引き寄せながら言う。 「〜〜っっ!!。命令形かよっ!!」俺は、赤い顔を益々赤くさせると、やっとの思いでツッコミを入れた。そんな俺に、あっさりとヤツは言う。 「ああ、命令だ」 「却下だ!。馬鹿!!」俺は無下に言い放つが、百目鬼はあきらめない。 「それこそ却下だ」と、言うと、俺の両膝の間を強引に広げると、そこに自分の膝を割り込ませた。 「んなっ!!!」そうすると、自ずと俺は百目鬼に向かってM字開脚をする格好になる訳で…。 「うわぁぁぁぁっっ!!!。お前、何つー事をっっ!!!」 俺が慌てて両手を布団について起きあがろうとすると、百目鬼がすかさず小さな音を立ててキスをする。 「…んっ」…結局、こうなるんだよなぁ…。 結局、百目鬼のしたいようになってしまった。それが、何だか悔しい。 唇が離されると、俺はむぅぅ〜っとした仏頂面で百目鬼を見上げた。 「くくっ、真っ赤だな」 「うっ、うるせぇっ!!」 満足そうに俺の熟れた頬に舌を這わせながら言う百目鬼に、俺はせめてもの抵抗とばかりに呟いた。 「…若年寄、朴念仁、鉄面皮、変態、エロジジイ…」 不満げにブツブツ言いながらそっぽを向く俺の耳元で、百目鬼が笑いながら低い声で囁く。 「…お前にだけだ、…君尋…」 「ぁっ!!?」いきなり俺の後腔に、百目鬼のモノが押し入ってきた。 「お、まえっ、…いきなり名、前、よぶの…反則…っ!!!」 「そうか?。だが俺は、…そう呼びたかったんだ。…君尋…」 「ひぁっ!!」 百目鬼のモノが全部俺の中に埋没すると、ヤツは動きを止めてギュッと俺の体を抱きしめる。実は俺、この瞬間が、とっても好きだったりする。だって、何だか、…コイツに愛されている様な錯覚になれるから、だ。 確かに百目鬼は好きだ。好きな相手とじゃなきゃ、こんな事はしないだろう?。 けど、こんな事を何度もしているけど、…だけど、実際、俺たちは恋人でも何でも無いんだ。 ヤツからの告白何てモノ、聞いた覚えが無ければ、俺も言った覚えはない。てか、俺もこれから先、言うつもりはない。 だって、この行為も、俺が侑子さんの課したバイトを終わらせたら、する意味も無くなるし、そうなればもう、コイツは…。…俺は…。 …でも、今だけ。…コイツとこんなふうに繋がっている、今だけは…。 せめて抱かれている時だけは、恋人でいさせて欲しかった。だから、俺は勇気を奮い起こして、百目鬼に言葉を返す。 「…どうめ…。…静ぁ…」 言うと何だか体が震えて、涙が滲んできた。 …ああ、そうか…。…俺も、名前でコイツのことを呼びたかったんだ…。 「静ぁ…キスも、欲しい…」何だか、舌っ足らずで変な甘え声になってしまった。けれど、そんな俺を百目鬼は怪訝に思うことなく、酷く優しく微笑むと、ゆっくりと口づけてくれる。 「…君尋…」キスの最中、どんどん百目鬼のモノが脈を打ちつつ脹らんでいくのを、胎内で感じていた。優しい時間に名残惜しさを感じつつ、俺は相づちを打った。 「うん、…動いても良いよ、静…」 そう俺が言うと同時に、百目鬼が激しく動き出す。 「あぁっ!!」まだ一度もイっていなかった百目鬼は、どうやら限界だったようだ。俺の胎内に埋めていたモノを、乱暴に引き抜くと、また深く突き刺した。ほぐれて慣らされた場所とはいえ、最初からこんなに暴れられると、痛みを伴う。 けれど、俺は、それで良かった。…なんだか、とても、とってもそれが涙が出るほど嬉しいんだ!。 「んっ、あっ、ああっ!!。…静…ぁっ!!」百目鬼が激しく腰を打ち付ける度に、俺の体は堪らない疼きでひどく切なくなる。そうなると、俺は我知らずに思わず身をよじりながら、快楽をむさぼるかのように腰を振っていた。 「きみ…ひろっ!!!」どうやら百目鬼も感じているらしく、荒い息の途中、俺の名前をとぎれとぎれで何度も呼ぶ。俺は、どうしようもなく嬉しくて、愛しくて、百目鬼を引き寄せると、自らヤツの唇にキスをした。そうすると、百目鬼は舌を絡ませてくる。 俺もヤツの舌に舌を絡ませると、そのままヤツに深く深く内腔を突き上げられて、下腹がキュゥッと快感に震えた。すると、百目鬼も体をブルブルと震わせる。 それと同時に、俺の奥深くに熱い固まりが注ぎ込まれた。その熱い固まりは俺の胎内だけでは受け止めきれずに、ゴプゴプと音を立ててながら溢れだし、腰の方までをも濡らした。 「はぁっ、はぁっ、はぁ…」百目鬼と同時にイった俺は、百目鬼を抱きしめていた腕をパタリと力なく布団に降ろした。 「…すまん、無茶をした…」浅い呼吸を繰り返し、力なく布団に沈み込む俺を気遣いながら、百目が謝ってきた。すまなそうに謝る百目鬼に、俺はつい吹き出してしまった。 「ぷっ、くくっ。あははっ、…お前なぁ…」俺は膝を立てると、未だに繋がったままの部分を見せつけるかのように、腰を緩く動かした。 「…謝るくらいなら、仕切り直して、もう一度するか…?」 「…四月一日…」 「…こう言うときだけは、名前で呼んでも、…俺は、構わないと思うんだけど…」 少し、俺は淋しい気持ちでそう呟くと、百目鬼がゆっくりと腰を動かしながら言う。 「それもそうだな、…君尋…」すると俺の体は、百目鬼の深味のある声に反応したかのように快感で震えた。 「…うん。…静ぁ…」 俺は再びヤツの首に抱きつくと、さっきとは打って変わって、今度は優しく抱いてくれる百目鬼に全てをゆだねた。
ふと、気がつくと、窓の外は東の方が明るくなっている。いったい何時間、夢中になっていたんだ…。と、自分自身にあきれかえりながら、隣で満足そうに横になっている百目鬼に目を向けた。そして、気にかけていた疑問を投げる。 「なぁ、何で俺があそこにいることが、お前に判ったんだ?」 すると、百目鬼は事も無げに答える。 「ん?。ああ、部活が終わった後、校門前に九軒がお前を待っていたんだ。待ち合わせをしていたのに来ないからとか言っていたから、一緒に帰ったんだが…」 ―――…はっ!。しまったっ!!。 「あぁぁぁっ!!。そうだった!!。ひまわりちゃんと放課後、ケーキ屋に行く約束、忘れてた――…っ!!!」俺は、思わず頭を抱えながら起きあがった。 …俺から誘ったのに!。折角、ひまわりちゃんが OK してくれたのに、…なんたる失態!!。 「ぐうぉぉ〜〜〜っっ!!!」俺が苦悩でのたうち回っていると、それに百目鬼は追い打ちをかける。 「おい、四月一日」 「なんだよっ!!」 「安心しろ。俺が代わりに行ってきた」 「どっ、…百目鬼の、馬鹿――…っっ!!」 ヤツはフォローしているつもりなのか、それとも単なる嫌がらせなのか…。とにかく、その一言に俺は、より一層悲惨な表情で頭をバリバリと掻きむしった。 「…それよりも」百目鬼が頭を掻きむしる俺の手を引き寄せる。 「えっ?、えっ!?」後ろに引っ張られて、俺はボスンっと再び布団に横倒された。 「…学校に、行く前に…」 百目鬼の手が、無遠慮にさっきまで繋がっていた俺の後腔に指を差し入れる。散々中だしされていたせいでまだ濡れているそこは、難なく百目鬼の指を飲み込み、耳障りないやらしい水音を立てた。 「いっ!?。朝っぱらから何考えていやがる…!!」俺は慌てて百目鬼の肩を押し、制止を呼びかけるも…。 …って、聴いちゃいねぇ…。 俺の後腔がいまだに十分ほぐれていることを確認した百目鬼は、朝っぱらから元気に立ち上がったモノを俺の中に埋没させようと、その場所にあてがう。 ヤツのモノが入ってくる寸前。とうとう、俺の堪忍袋の緒がブッチリと音を立てて切れた。 「いっ…、いい加減にしろ――…っっ!!」 ―――…ばしん!。 俺は、利き手で思いっきり百目鬼の横っ面をビンタした。 「…痛い…」 「当っっ然だっ!!!。馬鹿っ!!」
あれ以上百目鬼の布団の中に居たら、今日は学校を休む羽目になりかねないと判断した俺は、ヤりすぎで軋む体を騙し騙しアパートに帰った。そして、あり合わせの材料で3人分の弁当を作ると、それを持って学校に向かう。 俺の顔色の様に、すがすがしく澄み切った青を湛える空がまぶしい。…いや、まぶしすぎるんだよっ!。 「ああ、…まぶしすぎて、むしろ空が黄色いぜ、…畜生っ!」などと、ぶつぶつ言いながら歩みを進めていくと、百目鬼に声をかけるひまわりちゃんの姿が見えた。二人が談笑している。けど、何て言っているかここからじゃ聞こえない。俺は痛む体にむち打ち、無理矢理小走りをする。 「おはよう、百目鬼君」 「…九軒…」 「あれっ、どうしたの?。そのほっぺた。赤く腫れてるよ?」 「…。…蚊に、くわれた…」 「ふ〜ん…?」 「おはよう〜♪。ひまわりちゃんvv」 ゼイゼイゼイ…。やっと二人に追いついた俺は、持っていた3人分の弁当を百目鬼に無言で渡す。百目鬼がそれを持ち上げたと同時に、俺は少しヘタって膝に両手を添えた。 「おはよう、四月一日君。…大丈夫?。顔色、悪いよ」 「へ〜きだよぉう。この位!」っと、俺は慌てて顔を上げると、ひまわりちゃんににっこりと笑顔を見せる。 「そう?。なら、良いんだけど…。あれ、四月一日君もどうしたの?。首の所、赤いよ?」 「えっ、へっ?。…あぁっ!!!」顔を上げた拍子に、学ランの襟で見えないはずの首筋のキスマークを見られたらしい。 「こっ、これは。…かっ、蚊にくわれたみたい。いっや〜痒いなぁ」俺は、慌てふためきながら、ベタな言い訳をする。 …しまった…。ベタすぎたか…?。っと、内心、汗なんだか脂なんだか分からないモノを背中にダラダラと流しながら、ひまわりちゃんをそっと見る。 「ふーん。そっかー。もう蚊が出てくる季節なんだねぇ。梅雨時期の蚊って、たち悪いって言うから、とっても痒そうだね」 どうやら、ひまわりちゃんは、そのままそっくり受け入れてくれたようだ。…ああ、ほんっとに穢れていなくて良い子だなぁ…。 …それに比べて…。 俺は嫌そうな顔でチラリと百目鬼を見ると、小声で吐き捨てるように言った。 「…うん。とにかくしつこくて、タチが悪い蚊だったよ…。…くそっ!」 すると百目鬼は、俺の言っている意味が分かったのか、視線をそらせる。 「え、なぁに?」 「ううん。何でもなぁ〜いよ。それよりもさぁ。昨日、ずっと校門で待っててくれたんだって?。ごめんね。俺、どうしても外せない用事があって…。許してもらえるかなぁ?」 「うん。大丈夫、気にしなくて良いよ。四月一日君のコトだもん。とっても大事な用事だったんでしょう?」 「う、うん…」 …やっぱり、良い子だよぉう〜、ひまわりちゃんv。んっ、もう、大好きっっvv。 俺は、思わず心の中で小躍りしながら、ひまわりちゃんとの会話を楽しんでいた。…が。 「それに、百目鬼君と行ってきたし。四月一日君が言っていたお店、とっても美味しかったよ。今度は、 百目鬼君と二人っきりで行くと良いよv 。」 ―――…はい!?。ニコニコしながら、今、ひまわりちゃん。…なにか、とんでもない事を言っていなかったか…?。 「じゃぁ、私、 邪魔したら悪いし 、友達と先に行くね。四月一日君は百目鬼君と後から、 仲良く 来てね。じゃぁね♪」 ―――…はいぃ!?。言葉の端々に、何だか嫌な含みが入っていたような。それが妙に引っかかる。 …でも、ひまわりちゃんに限って、そんな…。 でも。とてつもなく、嫌な予感が…。 「…なぁ、百目鬼」 「なんだ」 「お前、ケーキ屋でひまわりちゃんと、何を話していたんだ…」 半ばパニックに陥り、固まってしまった体をギギギと捻り、百目鬼を見上げながら、恐る恐るヤツに聞いてみる。 「九軒が一方的に喋っていて、俺は聴いていただけだが?」 「そうか。…ん?」俺の思い過ごしか…。と、思ったが、頭の隅に何かが引っかかった。 「…ひまわりちゃん、何て言ってた…?」俺は、質問を代えて再びヤツに尋ねた。 すると、百目鬼は相変わらずの無表情のまま、淡々と話す。 「ん?。…たしか…。俺に“ 奥さんいないと淋しい? ”とか聴いてきたり、“ 素敵なお嫁さんがいて、幸せだね ”だとか。あと、“微笑ましい 理想のカップル ”だとかなんとか…」 ―――…ズシャ☆!。 ヤツが言い終わらないうちに、俺は、地面に顔面からスライディングをかました。 「うっ…」 「…四月一日…?」 ずれたメガネをかけ直しながら起きあがる俺に、何があったか良く現状を飲み込めていない百目鬼が声をかける。が、ヤツの声が耳に入る寸前、俺はジャイアンにいじめられたのび太のように駆けだした。 「うわぁぁぁ―――――んっっ!!!」 その後、錯乱して猛ダッシュで校舎に駆け込んだ俺が、疲労困憊でぶっ倒れて、運悪く、後から来た百目鬼に姫抱きで保健室に運ばれたのは、…言うまでもない。
終。
|
後書き
ども、こんにちは。ふえふく猫の金沢智です。 この度は、二冊目のホリック本を手に取って頂き、多謝々でございます♪。 え〜っと、この本は、砕牙が企画した声劇CDのおまけ本という形で皆様方の元に届いた訳ですが、…いかがでしたでしょう(ドキドキ)?。 百×四で、一八禁本をおまけに出すって、自分のサイトで大っぴらに言っちゃったものだから、時間ギリギリの崖っぷちの中、血反吐を吐きながら書き上げた一冊です。 喜んで頂けたら、幸いです。 ちなみに、元ネタはまだ一八歳にすらなっていない、相方の砕牙からもらいました。 たしか、日立から水戸へと向かう車の中で砕牙が「”お題”をくれれば、何でも妄想できるんっすよ〜♪」とか、言っていたのでお題を与えたのが事の発端です。 私からのお題は、”生き霊”。 そしたら、こんなに素晴らしいネタを頂いちゃいましたv。あはっ☆。 けど、百目鬼が四月一日を倉庫から助け出すシーンで、百目鬼がドアを蹴破るシーンがあったのですが、…文才ないんで書けませんでした。…御免なさい…。 他にもセルフフォローや文足らずの補足説明が色々ありますが、…自分の為に止めと来ます。 では、皆様、今回はこの辺りにて失礼致します。
金沢 智 拝。
|
Copyright(C) 智 。 .All rights reserved.