あれは、いつの事だったか、、、だいぶ前の出来事である。ツーリングへ行った帰りであった。どこへ行った時のことだったか思い出せない。だが、それはここでは重要ではないのである。事件は、ツーリングから帰って来た所、そこから始まるのである。
R293を走って帰ってきた。私が覚えているのは、そのツーリングの帰り道の間、とても眠かった事だけである。それは尋常ではない眠さで、ほんの少しだが「走りながら寝る」という体験をしてしまった程である。
久米のセイブストアで解散する予定であった。駐車場に入り、続々と並んで止まるバイクたち。私は眠気との戦いに疲れきっていた。愛車ZZR1100を、かずぅー君ドラッグスターの隣りに止め、スタンドを出そうとした時「ガッ!!」と音がした。
スタンドを下ろそうと出した左足のかかとが、ギアを踏んでしまっていたのである。私は既にハンドルから手を離していた。そう、クラッチは握っていなかったのである。にもかかわらず、無情にもギアはガッチリと入り、バイクはガクン!と少し動いてエンストした。
ビッグバイクに乗ったことがある人は判ると思うが、その「ガクン!」は相当な衝撃なのである。その「ガクン!」に、私の体が付いて行けなかった。眠い。疲れきっている。ハンドルから手を離していたため、腰から下を急に持っていかれるような感じになって、上半身はのけぞり、ヘルメットは天を仰いだ。ムチウチになったか、と思うほどの勢いであった。
次の瞬間、ZZRの重い車体が傾いた。私は体のバランスを取り戻せないまま、一瞬こらえようとした。実際、この時ぐっと踏ん張れれば、倒れなかったかもしれない。しかしこの時、気持ちもついて行けなかった。体も心も、俊敏な対応が出来なかったのである。私の頭の中で『あぁ〜ダメだぁ〜』情けない声が響いた。そのまま、私の愛車ZZRは「立ちゴケ」してしまったのである。
ガシャッ!!!バイクは右に倒れた。私はかろうじてバイクの下敷きを逃れ、ゴロン、と転がった。今にして思えば、私はこの時一回転半している。そしてかずぅー君のドラッグスターに、ヘルメットをぶつけて止まったのである。私は青空を仰ぎながら、ウィンカーの欠片が散らばる乾いた音を聞いた。
みんながあっという間に群がり、私の倒れたZZRを立て直してくれた。私は、自分のバイクより、かずぅー君のバイクに傷をつけなかったか確認していた。どうやら大丈夫な様子である。次に自分のバイクを見た。右のウィンカーが割れている。このZZRというバイクは、転んだら間違いなくウィンカーが割れる、そんな構造のバイクなのである。次いで、ヘルメットを外して見てみた。かずぅー君のバイクにヘッドバッドしてしまったのである。当然へこんでいた。
あらためて、思う。冗談?これは冗談?じゃないよね。今、オレやっちゃったんだよね。中々、自分に起きた現実を、受け入れることが出来ないでいた。
はじめは「どうしたの?」「大丈夫?」「何があったの?」などと、みんな心配してくれていた。私がギアが入ってしまって、バランスを崩した、、、とか説明しているうちに、段々みんなも落ち着いてきた。そのうち、「しかし、あのリアクション!すごかったー」などと言い出すのである。「結構、早くにあきらめたでしょ」こっちはそれどころじゃなかったが、みんなの話を聞いていると、こういうことらしい。
私にはそんなつもりは無かったのだが、倒れる時のリアクションが、かなり大きかったらしい。みんな、それをワザとだと思っているのだ。 「バイクが傾き始めて、途中からあきらめたでしょ?結構早くに。そんで、どうせ倒れるならって、笑いを取る方に走ったでしょ。もう、名人芸の域に入ってましたよー。バイクを捨てて笑いを取るなんて、、、われわれ素人には出来ませんよー」
はっきり言おう。無意識でした。しかし、そんな行動を取ってしまう自分が、可愛くもあり、情けなくもあり、、、、名人芸と言われ、ちょっぴりうれしくもあり、ウィンカーの破片を見て、悲しくもあり、、、かなり複雑な心境でありました。
私はこの時以来、バイクを止めるときには、スタンドを降ろす前に、エンジンを切る事にしたのである。ビックバイクに乗る人はみんな、そうしたほうがいいですよ。リアクション王と呼ばれたいのなら別ですが。。。
そういうわけで、私にはしばらくの間『リアクション王』の称号が付いていたのである。そうは言っても皆さん、走っていてコケルのは、痛いから絶対避けましょう。コケルなら止まっている時に。そう!「立ちゴケ」は、ビッグバイクには付きものです。どうせコケルなら、派手に転んで笑いを取りましょう。
さあ!次のリアクション王は君だ!!