2002茨城県芸術祭映像コンクール
入賞作品紹介と審査評

特  賞 「この1年8ヶ月」 日立市・原田英一郎さん
● 昨年1月7日に3番目の孫が生まれ、それに安心したのか1月31日に家内がなくなりました。家内は生前「この孫は私の代わりよ」とよく言っていた。この1年8ヶ月の孫とのつきあいの中で、亡くなった家内から元気に育つこの孫に「家族の絆」が引き継がれている。それが「私の代わりよ」といった家内の気持ちではなかったのかと感ずるようになった。このようなことが孫の日常の行動の中からピックアップできぬかと思いながら作ってみた。

優  賞 「厳冬中富良野 -20度の世界」 日立市・中島 朗さん
● 平成13年の暮れに、次男が中富良野にペンション兼自宅を建てた。その新築祝いのため家族が当地に集まった。そこで私は生まれてこの方。初めての北海道の冬を体験することになった。その天候の変化は、初体験の私にとっては鮮烈であった。激しさと厳しさ、そして美しさに圧倒された。そんな自然のドラマに感動した。しかし、そこに生きてゆく子や孫たちのことを思うと立ちすくまざるを得ない心境になるのだった。

優  賞 「初孫 健ちゃんとスイスの旅」 日立市・細川 正男さん
● 初孫の健ちゃんは、パパが一年間出張でスイスに出かけたため、2ヶ月間ママと一緒に我が家に同居した。その後健ちゃんとママもスイスへ。半年後の夏に私たちもスイスに出かけ健ちゃんと再会1週間ほど皆で旅行した。その間の約9ヶ月間の記録である。作為的でないありのままの姿を伝えることで他人に共感が得られる作品ができればと思っています。

奨励賞 「日枝神社 流鏑馬祭」
     土浦市・岩城 英夫さん
奨励賞 「3.31.8:55 a.m.」
      つくば市・坪井 健さん
● 新治村の日枝神社で4月に行われる流鏑馬祭は大猿退治の伝説を儀式化した全国にも例のない行事で、茨城県の無形民俗文化財に指定されています。この祭りの全容をクラブ会員の協力を得て撮影、作品化しました。● 会話の「間」による停滞感とそれを一瞬にして打ち破るスピード感をシネマティックに体験できるストーリーを考えた。4人の男の東京への想いが交錯する刹那で物語りは加速する。スタイリッシュな映像でつづられるサスペンス。

奨励賞「鷲神社 からかさ万燈」
     新治村・安室 信さん
奨励賞「とりのこ山と若衆が舞う」
     日立市・佐藤 勝男さん
● 今年、民俗文化財指定40周年を迎えた新治村大畑の鷲神社の「からかさ万燈」を取材しました。ハイライトのからかさ万燈は5分ほどで終わるので2台のカメラで違った角度から撮影してみました。● 伝統ある鷲子山上神社と、4−5年に一度の祇園祭りに興味を持ち、若者たちのまつりへの情熱をまとめてみました。

茨城新聞社賞 「おみこし担ぎ」
         北茨城市・遊座 文一さん
● 荒川善文さんは現在56歳であるが若いときから各地のおみこしを担いでいる。今でも年間40回にもなるという。また若い担ぎ手の育成にも力を入れている。今回高萩の元旦早朝海みこしを例に荒川さんのおみこし担ぎ人生をまとめた。


審 査 評  このコンクールも、今年で37回目になります。今年は32点の応募があり、20年ぶりに30点を超える応募数となりました。内容的にもホームビデオからフィクション作品まで、豊富なコンテンツで楽しませていただきました。
 メディアもほとんどがデジタルテープとなり、技術的にもパソコンによるデジタル処理が手軽にできるようになり、ノンリニア編集の作品が大半を占めるようになりました。
 全体的に見ると今年の作品はレベルが平均化し審査員の評価も分かれました。特に上位、4作品はどれがトップになっても良い実力のある作品でした。
 僅差で特賞になった「この1年8ヶ月」は、いわゆるホームビデオですが作者自身の主観的な語り口がうまく、そこから醸しだされる情感が見るものに伝わってくるすばらしい作品でした。
 優賞の2作品にも同じことが言えますが、「初孫 健ちゃんとスイスの旅」の素直な自然さ、「厳冬中富良野 -20度の世界」の計算された作為には、表現の上で対照的なものがありました。
 茨城新聞社賞の「おみこし担ぎ」は客観的な視点ですが話の展開がよく、ほのぼのした作品になっています。
 奨励賞には、はからずもお祭の記録が3作品並びました。「日枝神社 流鏑馬祭」と「鷲神社からかさ万燈」は、丁寧な記録になっていますがポイントを絞りきれない、リアクションが描かれていないなど作品として弱い点がありました。逆に「とりのこ山と若衆が舞う」は祭のクライマックスを盛り上げる工夫はしていますが、作りすぎの感もあります。
 久しぶりにフィクション作品が入賞しました。「3.31.8:15a.m.」は、演技、撮影、演出など非常にしっかりした作品なのですが、スタイルにこだわりすぎてストーリーの展開が理解できないなど評価が割れました。
 前述したように、映像を記録するメディアは時代とともに移り変わっていきます。それでも、そこに収められ、伝えられる映像には変りはありません。映像表現の手法も多様化しますが、基本になるものは変りません。確かな基礎の上に新しい表現を重ねたおもしろい作品に期待いたします。
            審査員:澤田 忠、篠崎修一郎、豊田正夫

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update:2002.11.10 by m.toyoda