***高木技術研究所***

日本経済新聞 平成15年 1月1日(水)記事より

徳島・上勝町の「福祉農業」

和食のつまものとなる葉を摘み取る針木ツネコさん 庭先のありふれた木の葉で稼ぐ……。
タヌキが葉っぱをお金に変える昔話のような話が現実にある。
徳島県上勝町。ここに本社を置く企画会社「いろどり」がお造りやてんぷらなど和食 に添え、季節感を演出するつまものとして紅葉や南天の葉などを商品化したところ、 80才を過ぎたおばあさんが1ケ月に数十万年も売り上げる葉っぱビジネスが誕生した。 徳島空港から車で1時間。勝浦川沿いの山あいにたたずむ人口2千2百人余りの上勝町 は4割以上が高齢者だ。そのうち百人以上が「いろどり」と呼ぶ葉っぱビジネスに取り組んでいる。 針木ツネコさん(81)は毎夜、パソコンを立ち上げるのが楽しみだ。 自分が収穫・出荷した南天の葉や紅葉がどこの市場がどれだけ売れたか調べる。 トラックボールを器用に操り、町全体の中で自分の売上高の順位を知る。「いろどりするのは生きがいよ」。 午後になると町の防災無線を使ったファクスで緊急注文が入る。集荷できそうだといち早く電話で 連絡。注文取りは隣近所百軒以上との競争だ。 いろどりは15年ほど前に始まった。当時は山に入って葉を摘んでいたが、今は少しでも早く摘むため 庭先に専用の木を植える。売れ筋の樹木を園芸店から購入する。「最近はほう葉を植えた」 という針木さん、1997年同じ敷地内に孫夫婦が家を新築した際に稼いだ資金で援助した。 「売れんものはないよ」。売れ筋の樹木を10種類以上植えてきた下坂美喜江さん(77)は、 庭先を眺めながら話す。下坂さんは松葉や花で作る飾りの職人でもある。「みきえ」という個人ブランドを持ち 料亭には固定ファンもいる。年末で忙しくなると、昼は裏山や庭で竹や庭で竹や松葉を集め、徹夜で制作に励む。 ビニールハウスの中で紅葉を育てるのは志波純子さん(59)だ。 ミカンに見切りをつけ、紅葉を植えている。「年末には青い葉が高く売れた。最近はオレンジがかった赤が売れ筋よ」
葉っぱを納入するおばさんたちが「わたしらの大黒様じゃ」と慕う人物が葉っぱビジネスを 立ち上げたいろどりの専務、横石知二さん(44)。 1979年、県立農業大学校を卒業、上勝町の農協に入った横石さんは、この町の特産品を探す 毎日を送っていた。ある日、出張先の大阪のすし店で隣に座った若い女性らが料理に添えられた紅葉を 喜び持ち帰ったのを見て、ピンときた。 「これはいける」。ミカンや米の大敵だった気温の低さは紅葉には強み。 周囲の反対を押し切り、86年から出荷を始めた。全都道府県1万軒以上の料亭や卸問屋を訪問して販路を 開拓、料理人に弟子入りし、葉や花と料理の組み合わせも、万葉のいわれにさかのぼって学んだ。 上勝町は高齢者でも手軽にできる葉っぱビジネスを「福祉事業」と位置づけている。 景気低迷の今でも需要が伸びており、町全体で2億5千万円を売り上げている。横石さんより収入の多い 高齢者が3人いる。「若いモンにゃあ負けねえ」そんな声が聞こえてきそうだ。 (写真 和食のつまものとなる葉を摘み取る針木ツネコさん)

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