尖閣諸島の問題が起きて1ヶ月も経っておらず、険悪な空気もあったので旅行をキャンセルしようかとも考えたが、桂林などの田舎は関係無いだろうと多寡をくくって断行することにした。結果的には良かったと思う。なぜかと言うと、図らずも、今まで知らなかった中国の本性を垣間見ることが出来た旅になったから。
(写真をクリックすると大きくして見ることが出来ます。)
平成24年10月4日
ツアー初日は、成田10:55発ー上海13:00着、乗り継ぎ上海14:40発ー桂林17:05着だった。
旅の一行は、家内が集めた趣味の陶芸で知り合った仲間9人と他に1人プラス添乗員のOyさんの11人で、まるで私たちがチャーターしたグループ旅行の感じになり、非常に和やかな旅になった。家内が言うには、Oyさんとは何度も同行した仲でツアー社のピカイチガイドさんとのこと。彼女が付くからこの旅行を決めたらしい。実際、計画は周到だし、気が利くし、一緒にいて楽しい女性だった。
夕刻、旅程通り桂林に着いた。そこで待っていた方が、Riさんという現地ガイド、勿論中国人ですが、流暢な日本語で、このあと、いろいろと中国のことを話してくれた方である。
平成24年10月5日
二日目、と言っても桂林の旅の初日、桂林から車で1時間半の所にある龍勝梯田という棚田を眺めに行った。
旅行は全て専用バス、30人乗りのバスに12人がゆったり乗って快適だが、道中は長い。長い時間バスの中で退屈しないようにと、ガイドのRiさんがいろいろ中国事情を説明してくれた。
中国事情1(ナンバープレートのない車)
最初の話は、人口430万都市/桂林でのこと、街中はどこでも同じように交通渋滞、のろのろ運転している車を見てみるとナンバープレートのない車があった。あれっと思っていたら、別のところにもある。数十台に一台はナンバープレートがない。これについてRiさんが、はじめは面白おかしく話していたが、次第に熱が入って来た。「これが中国の現実だ。」「権力のある者がインチキして車の税金逃れをしている。周りの人がそれに文句が言えない、言おうもんなら必ず仕返しにあう。」「いい車に乗っている奴ほど・・・だ」と。中国は、8,000万人の共産党員が支配している国で、トップから平民に至るまで、支配する者・される者が決まっている。法治国家であり法治国家でないのだ。
龍勝梯田の棚田を眺める
「梯田」は棚田の意味、日本では「棚」の感覚だが、中国では「はしご(梯子)」である、面白い見方だ。日本でも棚田はあちこちにある。私がみたのは、能登の輪島にある千枚田だが、中国は、ちょっとスケールが違う。千枚田と万枚田位の差だ。もっと驚いたのは、こんな棚田が大観光地になっていることだ。道を造り、駐車場を造り、レストハウスを造り、農民に収穫の稲を運ぶ役者をやらせている。
国を挙げて、大金を投じて、住民の意志とは無関係に観光化して、外国人観光客を呼び、得られた利益は共産党員がむさぼる。 棚田を眺めに来たのだが、心は、どうも共産党のやり方の批判に及ぶ。
両江四湖ナイトクルーズ
桂林を囲む2つの川と4つの湖が水路で結ばれている所から夜景を楽しむのである。何十雙もの船が国内外の客を乗せて約1時間のクルーズ。湖の周りには、中国伝来の塔や館が並ぶ、更に行くと、ニューヨークのゴールデンブリッジやパリの凱旋門も出てくる。煌びやかにライトアップされた建物は目を見張る。しかし、どうも私にはしっくり来ない。これらのものは全て数年前(或いは十数年前)に建てたにわか仕立ての見世物である。船が近づくと、中で待っていた娘が民族踊りらしきものを踊り、過ぎ去るとやめる。完全にやらせである。ライトアップもケバケバしくて情緒が無い。東京のスカイツリーのライトアップの彩が如何に良いか中国人には分からないだろうなと思った。
平成24年10月6日
り江くだり
桂林観光のハイライト、桂林を南北に貫く全長437kmの り江の中で最も景観の優れている桂林〜陽朔の60kmを4時間かける遊覧船。私もこれが目的で来たのだ。
3億年以上かけて雨や地下水などに形成されて出来た奇形(カルスト地形)が織りなす風景は「天下一」と称えられるほど幽玄だ。この日もそうだったが、一帯が霞に覆われており、正に「水墨画の世界」に来た感じ。素晴らしいの言葉に尽きた。
陽朔の観光
り江くだりの終点、陽朔に着くとすぐに繁華街、浅草の仲見世通りの様な賑やかさだ。途端に物売りが近づいてくるが、はっきりと断らないと何時までもついてくるので閉口する。物売りは勿論だがどんな店にも定価が無い。何かお土産を買おうとする。「いくらだ?」と聞くと「200元
安いよ!」「高いから要らねー」「二つなら安くする」「一つでいい 50元だ!」など掛け合って、半値で落ち着けば相場かなと思った。
陽朔も桂林の続きで、石灰岩の岩山風景と水辺が美しい。「小り江」と呼ばれる川で筏に乗って両岸カルスト地形の奇峰奇景を見た。石灰質だから必ずあるのが鍾乳洞、日本の秋芳洞かそれより規模の大きいのがあり観光客を呼んでいる。しかし、この中も、ケバケバしい照明が自然遺産を歪曲して照らしている様に思えたのは僻みだろうか。
中国事情2(規則の無い商売)
桂林は亜熱帯地域、果物が美味しい。郊外に行けば産直の店が出ている。そんな中、道路脇に小屋を構え、ザボンを売っているのを多く見た。道端で産直の果物を売るのは日本でもあることで不思議でないが、その量がとんでもなく多いのである。ザボンをピラミッドのように積んで、おそらく100から200個位いがひとつの山(単位)の様だ。日本で見られる5〜6個の山なんて無い。そんな量を誰が買うのかとRiさんに聞いたら「長距離ドライバーだ」とのこと。「中国は広くて東西10,000km、南北5,000kmもある。亜熱帯の美味しい果物を北へ運んでやれば高い値で売れる。だから、積荷の間にザボンを何百個か持って行けば、いい副収入になる。」という訳である。ドライバーが勤務中にそんな副業をしても運送会社は多分何も言えないのだろう。
土産店などに置いてある商品も、相手の顔色を見ながら、少しでも高く売ろう。安く買おうの駆け引き。何人かいる店員は個別交渉で値段は同じでない。高く売り多く儲けた店員には余録が有るのか、有るに違いない。店の主は店員の上前をはねて伝票を作ると思うが、幾らが売上で、幾らが原価で、幾ら税金を申告するんだろうか。「道端のザボン売り」と同じ経理処理をしているとしか思えない。社会が悉くこの様な仕組みになっているので、インチキが横行し、正直者が損し、汚職の根源となる。これが中国なのだ。
野外ショー観劇
食事を終えたあと、絶対見逃せないという野外水上ショーを見に出かけた。陽朔の美しい山水画の世界をそのまま自然の舞台とし、2kmにわたる り江水域とその背景にある12の山で構成されている。自然を舞台に最大規模の照明、音響、演出効果のもとで、地元民600人が出演する大スペクタルであった。これには驚いた。中国という国がこんなデカいことを、雑作もなくやってのける国力に改めて畏怖の念を禁じ得なかった。構想から完成まで8年をかけ、2004年に公開開始後現在までに20万人が鑑賞したと言われている。
平成24年10月7日
陽朔郊外観光
四日目は、陽朔の郊外を見ながら桂林へ戻る行程だった。
白沙郷ではバスを降りて橋の上から村の様子を眺めただけであったが、今から思うと、一番鄙びた所で、静かで、山紫水明これに有りという感じがした。
また、世外桃園というテーマパークの様な所にも行ったが、特別の印象も受けない位い、カルスト地形と水辺に不感症になるほど多くの景観を見た。
中国事情3(ひとりっ子政策)
観光に来たのに、こんなことばかり考えていたのかと言われることを承知で書く。
中国の人口は13.5億人、世界の人口の約6分の1。黙ってるとどんどん増え続ける。そうでなくても1国での統率が難しい国。そこで政府が考えた措置が「ひとりっ子政策」、もう十年かそれ以上になるのかな。私も、別に悪い政策だと思っていなかった。観光地で見る若い家族の姿は、必ず3人。Riさんが言う、「どこを見ても3人」「夫婦と子供一人」「これが良い様に見えて実は良くない。」「子供を甘やかす為に躾教育が出来ていない」と言う。私はそれでも、悪いとまで思わないと言ったら、「結婚して子供が一人生まれたら、そのあと出来ない様に女性の子宮を手術するんですよ、強制的に・・・。」これが中国です!
平成24年10月8日
ツアー最終日は、予定のフライトの到着が遅れた為、桂林ー上海行が2時間遅れ、乗り継ぎの成田行きに間に合うか分からず、悪くすると上海で一泊の恐れでヒヤヒヤさせられたが、最終的には間に合って上海17:05発ー成田20:30着で予定通り帰着できた。
今の中国は
今から15年前、私は(会社時代に)5・6回中国 北京、上海、西安に行ったことがある。その頃と比べると中国は全くと言っていい程変わった。その時は仕事で来ていたから観光地がどうのこうのと分からなかったが、それでも、棚田が観光地になるとか、ナイトクルーズや野外水上ショー等という「やらせ観光」は無かったと思う。高度成長に併せて共産党幹部が考えて、外貨稼ぎの為に作ったモノの様だ。自然は素晴らしいが、造った物はわざとらしく、深みが無い。
もう一つ感じたことは、今まで私は「儒教の国」「宗教・文化伝来の地」と中国を尊敬して来たのだが、それをかなり変えなければならないと思った。支配者(歴史)が変わる度に、文物・思想・儒学までが曲げられたり捨てられたりして、残っていないのではと疑問になって来た。 近年、大義は正しいと思うが、裏では、政治の腐敗、汚職の蔓延、都合の悪い人間は排斥、党員だけが利益を横取りして富裕層を作っている。平民はこの一党独裁政治に反目している。その典型はHk氏だと言う。この人はG市市長となったが、汚職をあばき庶民の味方に舵を取ったら途端に失脚させられた。既得権益を持つ保身党員から罪をでっち上げられた為である。恐ろしい国だと思う。
最後に、尖閣諸島問題は?
私たちが中国に着いた日は、問題が起きてから3週間の頃で、反日デモや暴動が一応収ったが、尖閣諸島の周りには中国の船が連日航行していた(今も変わっていない)。観光が終わってホテルのテレビを見ようとしたが、昨日まで見ることが出来た日本のBS放送が遮断されていた。政府の指示だ。思うに、中国共産党員には、日本と対話を重要視しようとか、両国の関係を悪くしない様にと考える人間は一人もいない様である。何故なら、彼達は自分の身の保身しか考えない。仮に中国が不利益になっても自分が失脚しなければいいという人間ばかりの様だから。
この問題、何時になったら凍った関係に雪解けが来るのか想像出来ない。
今回の観光旅行は
旅行はとても楽しかった。桂林のカルスト地形を見、り江くだりで水墨画の世界を満喫できた。
旅行記が偏見記になってしまったが、そういう見方も有るのかと思って貰えれば嬉しいです。有難うございました。
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