日本アルピニズムの殿堂である穂高連峰は、3,190mの奥穂高をはじめ、北穂、前穂、西穂、涸沢岳などからなる、所謂アルプス銀座の代表格である。後期高齢になった私には、これらの山に行くのは体力的に無理な様だ。昨年、常念岳に登ったのは、パンフレットに「亀の子歩きでラクラク・・・」に惑わされて勉強不足のまま中級Bのツアーに参加した為ひどい目を付いたのであるが、しばらくたつと辛かったことを忘れて又行きたくなるのが不思議だ。常念岳は悪天候だったが、僅かな雲間から眺めた穂高連山を見て、あそこを歩いてみたいと言う思いが脳裏に有った。 そこへ西穂独標ツアーのお誘いがあったので、絶対行くと決めた。
  一年ぶりの山登りです。西穂山頂は無理としても独標ならと思った。独標とは、独立標高点の略で無名峰のことである。穂高連峰の中にはピーク(峰)が10数か所あるその一つで、名のある主峰ではないが、同格の山なのである。西穂の頂点ではないが、穂高を味わうことが出来る山として参加した。
 幸い、Nさんが同行してくれましたので、心強い味方を得ての山行きとなった。
 
                (写真をクリックすると大きくして見ることが出来ます。)
  初日、菅谷の駐車場を午前5時50分に出て、勝田、水戸駅などでピックアップしながら水戸インターから出発。山旅の添乗員は昨年の常念岳の時のOMさん。登山客は全員中高年、男性11、女性19名、やはり女性上位だったが男性の中には常念岳で一緒だった人もいて直ぐに和やかムードだ。バスは中央自動車道松本から一般道に出て、安房峠を越えて新穂高温泉/しらかば平に13時40分到着した。
  天気は最高、少し暑い過ぎる位だが山歩きにはこの上ない条件。
  しらかば平(標高1308m)からロープウエイ(国内唯一の2階建てゴンドラ)で千石平(標高2156m)まで7分間で上がった。高齢者にとっては本当に有難い。ロープウエイ乗り場から一緒になった登山ガイドは、これまた偶然、昨年の常念岳の時のMさん(長野県山岳救助隊員)でした。登山口を出発したのは14時50分、針葉樹林の中から時々見える山並みを見ながら、あの山並みの所へ行くんだと心がはずんだ。はじめはなだらかだが徐々に傾斜を増し急坂になる。息が切れて苦しくなった頃、今日の泊りの山小屋 西穂山荘(2360m)に到着した。何人かの人がぺースが早過ぎたと言っていたが、私には気にならなかったのは、日頃のウオーキングの成果かと秘かに自己評価した。この山荘は300人収容となっていたが満員状態、山荘の前のスペースにもテントがびっしりで、さすが、最盛期のアルプス銀座だと思った。
   
新穂高ロープウエイ 樹林から垣間見る 一行の人たち 樹林を登る 西穂山荘









  2日目、またまた天気最高 360度の展望
  4時50分出発。ちょっと早すぎると思ったが差に非ず、朝焼けの空と雲海を見るのはこの時間でないとダメだとの配慮だったのだ。そして、ふるさとの山「白山」が雲海の彼方に浮かび上がった姿を見せて感動せずにいられなかった。来て良かったと心から思った。歩きながら、陽が登るにつれ、山々の頂から順次全容を現して 見参 だ。笠ヶ岳(2897m)が優美な姿を誇示し出した。先頭を歩いていた添乗員のOMさんが、“素晴らしい、こんな素晴らしい日に来れた皆さんはラッキーだ、日頃の行いが良かったからでしょう”と、ありきたりだがそれ以上の言葉が無いくらいの満足げな表現だった。
西穂山荘から 白山が見えた 朝日が照らす 笠ヶ岳 オヤマリンドウ








  西穂山荘泊の殆どの人が早い時間から登り出していた。この山荘に泊まる人の大半は西穂山頂を目指す人、テント泊の人は更に奥穂とかもっと向こうへ縦走する人が多い。我々中高年ツアーたちは無理のない所まで行って戻ってくる。勿論それで良いのだが、こういう中にいると体力差を見せつけられる。目の前に聳える独標へ、山荘から頂上への標高差は僅か341mだが、岩だらけのとんがり帽子の山で特に最後の50mの岩登りがとてもきつい。それまでジグザグに道をとり登ってきたが、最後の50mになると“ストックをしまって手で岩に掴まりながら這い登る”。上を見ず、わき目せず、ひたすら前の岩の手懸りと足の踏み場だけを見て登る。下りる人があると、どう交差出来るか考える。登り優先だからと言っても30人が通過するのを待つ方も大変なのだ。“スミマセン、こんにちは、ドウゾ”とか声をかけあってゆずりゆずり、やっと独標頂上に辿り着いた、午前7時03分でした。2701mの標識を入れてしっかり写真を撮って貰いました。

あと少し あと少し 這いつくばり 独標頂上
     
笠ヶ岳方面 西穂・奥穂方面 霞沢岳方面
















  最高のお天気に恵まれて360度の大展望。西に笠ヶ岳、北東に西穂、東南に霞沢岳を、更に遠くは、富士山が霞んで臨むことが出来ました。至福のひと時は僅かで、全員で写真を撮るなどして、それでも15分ぐらい居たが、その間も、西穂へ向かう人たちがかき分け通過して行きます。狭い頂上を永く占領するわけには行かないので程なく下山した。後から思ったが、我々もここまで登れたので、この先西穂山頂まで行けないことは無いとちょっと恨めしく思った。
     
 下山 独標頂上を振り返る  登山口近辺   しらかば平








  下山は、登りよりもっと気を使った。しりもちを突く格好で、ずり下りる様にして、登る人があればいなくなるまでじっと待って下りたので、急傾斜では時間が掛かったが、ゆっくりおりた。何しろまだ8時前だったから。来た道をそのまま引き返し、西穂山荘(9時15分)で休み、戻る惜しさを感じながら しらかば平へ11時15分に着いた。昼食と日帰り温泉に入って、高速のサービスエリアでお土産を買って、出発地の菅谷の駐車場には20時30分に着いた。

 おわりに
  日本アルピニズムの殿堂北アルプスへの憧憬で決めた今回の山行きだったが、素直に良かったと思う。それも山は穂高であり山岳愛好家の仲間に入れたような気分である。本当はその入り口で帰って来ただけなのだが、山ですれ違う人や山小屋で出会う人たちに接してみると、若さを貰い健康感がみなぎる。それに、自分の脚がどの程度の山歩きに耐えられるかを試すこともあった。ここ3年半、毎日一万歩に挑戦して来て、それなりに達成しているが、最近は歩くことだけがノルマになって、ただの歩数稼ぎになっていた。そうなると体脂肪が増え、飲酒や食事も疎かになって来ていた。山歩きすると、何が良くて何がダメかチェックすることが出来る。自分の課題を見直す為に役立つのである。今回はまあ合格の範囲かな。
                                    おわり。