「くそっ!何でこんな事に」
「・・・ごめんね・・・公績」
凌統の腕の中、震える身体を必死に押さえる尚香の姿は痛々しい。
「姫のせいじゃ!・・・そんな顔、しないで下さい」
どうしてこんな事になったんだろう?
どうして、苦しむあなたを救う事が出来ないのか?
「公績・・・もう、私に触らないで」
突き放すように胸に置かれた手が尋常じゃないほど熱かった。
「・・・姫」
「あなたまで、苦しむ必要なんかないじゃない?」
ねぇ、そうやって歪んだ笑顔を見せるあなたを・・・救う道を選んでも良いですか?
陰事の如く プロローグ
呉の国にも賊は多い。
そうした賊の討伐も国には必要な事で、今回の戦も賊との戦いだった。
建業から離れた地で好き勝手に暴れる盗賊と山賊の連合軍、
かなりの人数を集めているらしく、一刻も早い討伐が望まれた。
数日後、ついに孫呉は戦へと踏み切る。
「敵は左翼に多くの兵を配置して陣形を敷いている。我々はこの策に乗ったフリをしよう」
「左翼にこちらも主力を配置したと見せかけ、別の道から一気に本陣へ攻め上がる、という事ですか?」
軍師見習いの陸遜の問いに周瑜は深く頷く。
「左翼に太史慈と私が孫策を伴なった陣に見せかけ突き当たる。その間に孫権殿と周泰軍が
更に左から敵の本陣を目指す。中央には甘寧と凌統が当たれ」
うえぇぇぇ!?と批難染みた声が上がるが周瑜は無視した。
「ちょっと待てよ、俺はどうすんだよ!?」
「孫策、今回の総大将は君なんだぞ」
お前が動いてどうする?という無言の圧力がかかり、それ以上孫策は何も言えない。
こんな事なら総大将は権に任せとけば良かったと後悔しても後の祭りである。
「じゃあよぉ、右翼はどうなってんだよ?」
「前に出した偵察からの報告では、近くの村民達を人質として集めていたらしい。
そこが右翼部隊が当たる場所になる」
「だから、その右翼部隊は?」
「姫だ」
「尚香が!?」
「圧倒的に敵数は少なく、人質を救いに行くだけなら危険はさほど無い」
「・・・本当だろうな〜?」
「君は姫の事になると、しつこいんだな」
「だってよぉ」
大切な妹に何かあったらとぶちぶち文句を言う孫策に、周瑜は溜め息を混ぜつつ答えた。
「姫の実力もわかっている、無理ではないさ」
「・・・まぁ、最近あいつもよくやってるしな」
「それにな、人質救出には少数の方が有効なんだ」
「わぁ〜ったよ、周瑜がそう言うならそうなんだろ。よっし、二日で終わらせるぞこの戦!」
孫策の掛け声に、周りもやる気に満ちた声と腕を張り上げた。
<続>
まだ序章に過ぎない