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 “議院内閣制”と宝塚市の議会基本条例制定
 <日時および場所、表題>
2010年 4月22日(木)『議員研修会in宝塚』
   兵庫県宝塚市『宝塚ホテル』13:30〜16:00
 司会 小山哲史 宝塚市議会元議長
 講演 『行政改革とは何だったのか?』
    並河 信乃 拓殖大学地方政治センター客員教授、行革フォーラム代表
 講演 『「議院内閣制」の地方版は?−イギリスを参考に』
    竹下 譲 拓殖大学地方政治センター長
   4月23日(金) 宝塚市役所 13:30〜16:00
 (1)議会改革の取り組みについて
    村上真二 宝塚市議会事務局次長
 (2)スクールサポーター制度について
 (3)理科おもしろ授業について
    橘俊一 宝塚市教育委員会学校教育課長
 参加者 かいかくネット 白土仙三郎、石井仁志
 
 
 地方議会は必要なのか 『行政改革とは何だったのか?』 並河先生講演
 
拓殖大学の地方政治研究所は、これまで学問として地方政治を取り上げる大学がなかった中で、地方議員の交流と質の向上を目的として、昨年設立されたものです。大学院地方政治行政研究科の付属機関として「地方政治センター」を設置、今回の2人の教授が所属しています。
 他の有名私立大学の大学院大学などにも地方政治に関する講座は設けられ、行政人や地方政治の政治家の養成を始めていますが、多様な地方政治が存在する中で、地方政府同士での交流や研鑽を目的とする情報交換の場所はなく、各地域が良くも悪くも独自性と独断で運営されているのが現状に見えます。
 この拓大の地方政治センターは、地方議員を会員として集め、イギリスの地方政治研究者である竹下先生をセンター長に迎えて、情報交換とそれらを通しての地方政治のレベルアップを目的としています。これから激変するであろう新しい地方政治の水先案内人になってくれることを期待します。
 各地の地方議員の要請を受けて、各地域で議員研修会を開催し、昨年11月に栃木市での「議員研修in栃木」につづく第2弾となります。
 翌日の視察で見るように、宝塚市の第一会派(5人)である「市民ネット宝塚」のなどの議会改革への取り組みを応援するかたちで、約50人の近隣地方議員たちも参加しました。
 昭和56年、鈴木善幸首相時代の第2次臨時行政調査会の会長に就任した土光敏夫経団連会長。そこで歳出削減などを提案し、次の中曽根内閣(S57年11月成立)の国鉄民営化、電電公社の民営化を主導。並河先生はその土光臨調の応援団として『行革フォーラム』を結成。
 前回同様、行革の目的とは @中央政府の政治 A地方政治 Bマーケット この3つが行革の遂行で蘇りをはかる−−これが官僚から住民の手に政治を取り戻す方法だと前回同様に説かれました。
 宝塚市も議会基本条例の今年度中の成立を目指していますが、この第1条に「議会を置く」と条文を入れるべきだとのお話しをされました。現実的にはある市町村で「議会を置く」との条文を県に相談したところ「不必要」との判断がされたとのこと。
 
直接民主主義が議会に代替できるか
 
 講演後の質問で地方自治法に詳しい出席議員さんから「町村レベルでは住民総会で議会を代理出来るはず」との意見も出されました(過渡的に議会を置かなかった町村が存在したそうです)。
 次の竹下先生の議院内閣制の講演でも問題になりますが、我々地方議員が、議会を置くことすなわち間接民主主義の意義を再検証しなければ、議員定数の削減や、議員報酬の減額要求に対抗できなくなります。
 竹下先生の講演時に話されました。直接民主主義の問題点は、合併問題などで住民投票が多用されましたが、感情的な判断が優先し、何か月後に同じ住民投票で結論が逆転したケースが出ています。住民投票=直接民主主義が万能ではなく、複雑化した現代社会では財政問題など一定の知識習得が必要です。政治的な判断に“専門家”としての議員が必要なはずです。これが現実的に世界の趨勢が間接民主主義を取り入れている理由です。議員は必要です。
議会はなぜ死んだのか 『「議院内閣制」の地方版は?』 竹下講演
 
 
ここで話された「議院内閣制」とは、民主党政権に加わった地方政府の首長さんたちがリードしている議論だそうです。現在の二元代表制は首長と議会が別個に選挙によって選出されることで、行政の長は自覚的な議会から反撃されて行政効率が落ちること、さらに住民の目線からも議会の存在意義が疑問視されていることから、この議院内閣制が議論されているとのこと。
 現在検討されている制度は、選挙は現在の二元代表選挙のままで、当選した市長が副市長など行政のトップに議会議員を割り当てる制度を指しています。
 日本国政治の議院内閣制度は、政党が政党単位で政権付託を有権者に問い、付託を得た政党が首班指名をして、その首相が行政官のトップとなり、さらに行政の監督者として議員から大臣を指名する、議院内閣制が存在しています。
 今回、議論されている地方版議院内閣制は、議会運営に苦労した政権民主党のかつての首長がイギリス地方議会制度をモデルに提案しているようです。
 イギリスの政治制度に詳しい竹下先生によれば、イギリスの地方自治体は様々な形態を持ちます(地方自治体の構成そのものがパリッシュなど教区から発祥したものや、大ロンドン市など、ほとんど行政機能を擁しない地方政府など多様に存在します)。
 
 英国の形骸だけを真似るな
 
 イギリス地方政府の大部分は、労働党、保守党、民主党などの政党が、その系列の中で地方政治の候補者選定までを取り仕切り、日本国政同様に、政党単位で政治の付託を問い、一元的に政党の選択を迫る地方選挙が行われます。
 そして地方政府の政権を付与されると、その選出された議員たちが市長を選出し、その他の議員の何人かが行政のトップを担います。一方にシティマネージャーが存在しています。現実的にはシティマネジャーを官僚の事務次官と例えると、大臣が議会から就任する日本国政の議院内閣制に似ています。
 イギリスの自治体は数百を数えるそうですが、二元代表制・首長の公選制を取っているのは11自治体だけだそうです。
 ついでに竹下先生の政権占いです。イギリスでも保守党から労働党が政権奪取をした後、保守党は日本の様に分裂したそうです。その後には奪取した労働党も分裂して、結果的に早く大同団結を復活した保守党が政権を奪回したそうです。
 
 議員報酬の半減を言われる理由
 
 竹下先生は、地方議会改革の流れの中で二元代表制に様々な議論がある中で、地方版議院内閣制が議論されることに懸念を表明しています。
 この議論は、首長に取り込まれている現議会そのもの反映なのかも知れません。一介の議員であるよりは副市長になりたいですし、大臣同様の格付けが、格好良いですから、ますます議員は首長に取り込まれることになり、二元代表制の形骸化そのものです。せっかくの二元制の議員側の選挙結果がないがしろにされることになります。
 現在の地方議会の大部分が、首長の歓心を買うことに汲々として形骸化し、議会の独立性を見せられないことから有権者に議会不要論が蔓延し、このような議会を貶める議論が大手を振ってまかり通ります(参加者の中に合併前の首長、合併後に市会議員という方が「議会の反対は事業成功のバロメーターと考えて張り合ってきた」と、ユニークな意見がありました)。
 名古屋市の河村市長が議員報酬の半減など議会不要論を公言しています。中身のないパフォーマンスですが、議会が何もしていないから喝采を浴びるのです。
 ではどうするか。定数減員、議員報酬削減の議論に竹下先生は何時も反論しています。報酬を減らせば優秀な人材は議員を敬遠します。
 そのために議会がこれまでのように沈滞したままでは「地方議員はいらない。定数を減らせ、議員報酬を削減せよ」との声に対抗できません。竹下先生は、勉強会の大部分の参加者である地方議員に、常に議会の活性化を説いています。
 
 地方議会の必要性は高まる
 
 これから“地方政府”が、各地で政治行政を自ら担っていかなければならなくなります。これまで明治政府以降、中央集権国家の下請け機関としての地方行政にお飾りの地方議会があった時代とは違うはずです。
 地域が独自の地方政府を確立していく流れは、現在の民主党政権は「地方主権」と言い、地方分権改革答申なども次々に自治法改正を急いでいます。この流れは止められません。
 各地に国会と同様の権能を持つ“地方政府”が確立されれば、首相や首長は行政の長(おさ)として権力を掌握します。権力には必ずチェック機関を置かなければ当然に独善化して腐敗します。
 国家にはマスコミと言われる権力チェック機能を持つ報道機関が存在します。地方政治にはこれは難しい問題となります。オンブズマンも制度化されていません。
 結果的に首長をチェックする働きは議会が担わなければなりません。地方とはいえ財政・金融は複雑化し、市民の生き方も多様化し、基本計画などで提示する地方政府の将来像も難しくなります。
 市民参加として市民の声は聞きますが、高度化した社会システムを地方政府として運営するためには、首長のみでなく、素人が議員になって勉強して専門家としての役割が求められるはずです。
 地方政府の“専門家”として、地方議員と地方議会が必要な理由です。
 
 議員同士が激論した時代があった
 
 竹下先生は、この地方議会の復権のために議員同士の議論の場を繰り返し提唱しています。
 宝塚市の議会改革取り組みで「議会基本条例」が検討されています。その他の地域で議会基本条例を制定したところでは、竹下先生のこれらの提案は取り入れられていきます。
 議会の歴史的な経過に面白いお話しがありました。
 昭和20年代、焦土からの学校再建などで、地方議会で喧々囂々の議員同士での議論があり、灰皿などが飛び交ったそうです。たぶんこの反省で、議会規則に議場への武器になるものへの持ち込みが禁止されたのでしょう。
 ところが昭和30年代になって、中央政府の紐付き交付金や補助金が出てくるようになると、議会としても首長と共に中央政府への陳情合戦が地域の発展の最大の課題となり、議員は陳情時の付録と化します。
 この時代は「革新自治体」と言われる、公害問題などで国に対抗して首長が活躍しますが、議会はその覇気をスポイルされて現在に至っています。 
 民主党政権の高速道路料金についての右往左往を見ていると分かりますが、政治に正解はありません。集団の構成者の声と試行錯誤が政治そのものだと思います。
 今回取り上げられた議院内閣制も、私たち議員から見れば、かなりおかしいのですが、現在のままの議会の活動では、議会不要論に等しい議院内閣制が本格的に言われ出したときに、有権者の批判を回避して阻止するのは難しくなります。
 議会基本条例の詳細を詰める  宝塚市 「議会改革の取り組み」
 
 
今回、拓大の地方政治センターと提携して、議員研修会を催した宝塚市は、来年4月の統一地方選挙に市議会議員選挙を控え、それまでに「議会基本条例」を成立させようとしています。
 人口22.5万人、阪神地区の優良ベッドタウン都市、阪急電鉄創立者である小林一三氏が宝塚大歌劇場など大胆に作り上げたまちで、六甲の山から下る武庫川を挟んで高級高層マンション群が目立ちます。
 市会議員の条例定数26人(現25人)。別紙参考資料にありますが、通常議会は2ヶ月にまたがる30日、一般質問に4日間を充て、質疑含めて1人1回90分制限の中で20人を超える質問者が普通だそうです。
 もちろん予算、決算委員会があって、互いに半数づつが所属します。常任委員会は3委員会ですが、すべて別の日に設定して副市長(2人)がすべて出席するそうです。
 質問形式も従来型のA方式と、一問一答式のB方式を質問者が事前に選択できます(上写真の白土議員が座っている場所が対面式の質問台。右手前が従来型の質問・答弁壇)。
 議員立法などの実績、議員へのパソコン配布により本会議録制作を82部から10部にするなど、先進的な取り組みに実績があります。ここでは、これから作らなければならない後発議会が参考とすべき、議会基本条例作成に携わっている議会改革特別委員会に注目します。
 
 3部会が分担して議論を詰める
 
 すでに議会基本条例の施行は都道府県で10を超え、市町村でも50を超えています。平成18年の北海道栗山町に端を発してここまで受け入れら、様々な先進事例が作られています。
 宝塚市では、この議会改革委員会を3部構成とし全議員が理事などを含めて関わっています。
 第一部会:議会基本条例に関すること(8人)先進地の調査研究。開かれた議会の研究。
 第二部会:議会の活性化に関すること(8人)自治法96条2項の議決事項の研究(議会での議決事項を増やそうとするものですが、各種マスタープランなどを議決事項とした場合、議員の責任の所在が問題になります)。種々の議会活性化策の検討(すでに昨年1月から「とにかく議場を見てもらおう」と議場コンサートなどを催しています。ちなみに委員会も含めて、議会傍聴人は多いそうです)。
 第三部会:政治倫理、資産公開に関すること(7人)他市議会の取り組み事例を研究。
 
 たぶん新しい条例に盛り込まれるであろう「市政報告会」(執行部抜きで全議員が交代番で何人かが組になり、地区集会所で市政報告会を定期的に開催する。議員の説明能力向上と、個々の議案に対する賛否などを住民に問われる)など、当然に条例施行に賛成する議員ばかりではありませんが、来年4月が選挙ですから後戻りできない立場でがんばることと思います。
 
 一般質問を議会終盤に移行も検討
 
 ここで、前日の竹下先生の言われる「議員同士の議論」について、面白い話を聞かされました。
 常任委員会などでは、現在も議員同士の議論が活発ですが、宝塚市は常任委員会にも傍聴人が多く、議論が錯綜した場合、日立市などでも休憩を挟んで個人的な調整に入るケースが普通です。これは、傍聴人にとっては「はい、再開・・・(結論)」となってしまうわけですから、議員同士の議論が見えません。新たな条例で「工夫の余地あり」とのことでした。
 また、一般質問が議会の初めにあって、事前審議の恐れや、委員会審議に遠慮せざる得ないケースがでます。この対策として一般質問を議会最終盤に持ってくることも話し合われているそうです。
 ちなみに宝塚議会では一般質問が多く、議案質疑は否定しませんが、ほとんど申し出がないそうです。
 
 
理科推進員は1学級年間60時間
 
  宝塚市 「スクールサポーター制度」
      「理科おもしろ授業」
 
 どちらも日立市でも取り入れている事業です。
 スクールサポーター制度は、県などの補助教員をさらに手助けする形で市立小中学校に年間40日(1日3時間程度)教員退職者、大学生などを手配するものです。現在の登録数40人。
 理科おもしろ推進事業は小学校5,6年生を対象に1学級当たり年間60時間、教員経験者、学生などに「理科推進員」としてお願いするものです。国県の予算ですが、時間数は相当になっているようです。
 
                                                     以上
 2010.4.28.                                              文責 石井 仁志